ベゴニア

「松川くんは好きな子とかいるの?」

「今はバレーが一番だからなあ」

純粋そうな瞳にじっと見つめられて、とっさに誤魔化した。

多分名字さんにはバレなかったと思う。

「そっか〜」

「なんで?」

「松川くん女の子から告白されても断るって聞いたから、誰か好きな子でもいるのかな〜って思ったんだけど」

まさか君だよ、なんて言えるはずもなかった。

一年の頃に一目惚れして、2年になって同じクラスになれて少しずつ距離を縮めていった。

3年生の今名字さんと一番仲の良い男友達になったと思う。

まだ名字さんは俺のことを意識してくれていなくて、そんな中聞かれた質問に告白まがいのことなんてできるはずもなかった。

「引退したら彼女とか作るの?」

それでもやまない質問に勘弁してくれと思いつつ「さあ、その時にならないとわからないかな」と曖昧にこたえた。

それが3年に入ってすぐの5月。

そして11月も中旬に入った今日、同じ質問を名字さんにされた。

「松川くんは好きな子できた?」

この質問は俺がイエスというまで続けられるのだろうか。

「それ、前も質問したよね」

「引退したから変わったかなって」

ニコニコと無邪気に笑う名字さんに「ずっと好きな子はいるよ」と前回とは違う回答をした。

同じ質問をする彼女に少しの期待を込めて。

「あれ、そうなの?」

「うん、もうバレーもやめたから今はその子が一番」

悪戯っ子みたいな瞳で俺をみて、名字さんは一言こう言った。

「それって私でしょ?」

嬉しそうに笑った名字さんは俺の返事も聞かないで教室から走ってでていって、「私も松川くんのことずっと好きー!」と廊下に響く大きな声でそう叫んだ。

遠くで及川の「まっつん告白されてるんですけど!?」って声が聞こえたけど、それより今は名字さんを捕まえないと、と急いで俺も教室を出た。



花言葉:愛の告白


お題:忘れられない瞳



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