芝桜

「スーーーーガーーーー!!」

春高も終えた高三の二月、帰り道を歩いていたら後ろから大きな声で名前を呼ばれた。

振り向けば高二の時のクラスメイトの名字がいて、久しぶりに見た顔に思わず顔が綻んだ。

「久しぶりじゃん」

「今日ね、二次試験の結果でたから先生のとこ行ってたんだ」

「マジか!どうだった?」

「合格でしたー!」

「めでたいな!」

イエーイとハイタッチしたあと拳を合わせれば、高二の時に戻ったような感覚になる。

「スガは?学校に用事あったの?」

「俺も合格したから先生のとこ行ってた」

「おめでと〜!…あれ?でも会わなかったよね?」

「その後部活に少し顔出してきたからな」

なるほど〜なんて頷いているコイツは俺の片想いの相手で、高二の時に一回フられている。

大地に「スガと名字さんはお似合いだと思ったけどな」なんて言われるくらいには仲が良かったし、正直脈アリだと思っていた。

でも告白した時に出された答えはNOで、一応友だちのままでいようねとは言われたものの結局学年が変わって疎遠になってしまった。

「ってか名字帰り道こっちだっけ?」

「ううん、スガが見えたから寄り道〜!」

えへへと笑う名字に、本当になんでフられたのかがわからない。

「もう遅いんだから真っ直ぐ帰れっての」

「スガお母さんみたーい」

「お母さんじゃありません!」

「だってスガのこと見つけたら嬉しくなっちゃったんだもん」

頬を膨らませて拗ねる名字は相変わらず可愛くて、忘れてた恋心が顔を出した。

「お前、フった相手にそれやんのはせこいべ」

自分が思っていたより暗い声がでて、慌てて顔をあげたら泣きそうな顔の名字がいた。

「あれさー、いじめられてたって言ったら信じてくれる?」

必死に涙を堪えながら言う名字に唖然として「誰に…」と声を絞り出すのが精一杯だった。

「違うクラスの子。付き合ったらもっといじめられるかもって思ったら言えなかった、ごめん」

今度こそ大粒の涙を溢す名字に「気づいてやれなくてごめん」と謝った。
あの時気づいていれば名字は辛い思いをしなくてすんだのか、と後悔ばかりが募る。

「私ね、スガと同じ大学受けたの」

聞こえた言葉に驚いて顔を見れば、涙を拭きながら嬉しそうに笑う名字がいた。

「進路同じなら会えるかなって」

「マジ?」

「うん、澤村くんに進路教えてもらって追いかけちゃった」

「大地に?聞いてないべ」

「言わないでって頼んだもん」

初めて聞く話に顔を顰めたら、ペロリと舌を出してふざけた顔をされた。

「あの時ね、スガのことちゃんと好きだったよ」

「今は?」

「今も好き」

「俺も…俺もずっと好き。今日会えてよかった」

堪らず抱きしめた名字の顔は夕日と同じくらい赤くて、耳に入る川の音に心が澄むのを感じた。



花言葉:臆病な心


お題:夕暮れ時の川原



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