カモミール

澤村くんは自分たちのバレーを他人に「堕ちた強豪、飛べない烏」なんて揶揄されているのをジッと我慢していた。

努力すればいつか花開く時がくるなんて言うけれど、そんなのは周りが勝手に言っていい言葉じゃないなと彼を見て思った。

そんな彼が心の底から楽しそうにバレーをするようになったのは三年生に上がってからだった。

どうやら後輩にすごいのがきたらしく、手は焼いているようだがそれすらも楽しそうに話してくれた。
顧問の先生がついて、コーチが来てくれたのも大きな前進だったと澤村くんは言っていた。

今まで負け越しだった試合も勝つ回数が段々増えていき、見るたびに成長する彼らはとても格好よかった。
ボロクソに言われても、決して後ろを向かずに前だけを見ていた彼らだからこそ成長できたんだと思う。

「名字、話聞いてくれてありがとな」

バレー部が奮わなかったとき、澤村くんは必ず私に今後の課題を喋るようになった。

初めて話を聞いた時に「私バレーのことわからないからアドバイスとかもできないんだけど」と言ったら、澤村くんは「名字に話したらやらなきゃって思えるんだ」と返したのでその後は毎回聞き役に徹している。

人に話すことによって考えが纏まることもあるんだろう。

そして今までの努力が実を結んで、ついに春高出場が決まった。
ずっと話を聞いてきたから自分のことのように嬉しかったし、私も頑張らなきゃと自分に喝を入れることができた。

「東京までは流石に応援に行けないけれど、がんばってね」

「うん、名字もセンターもうすぐだろ?そっちも頑張ってな」

お互い固い握手をして、澤村くんは東京へと旅立った。

テレビの中継を見ながら、澤村くんが少しでも勝ち続けられますようにと一生懸命祈った。

結果は鴎台に負けてベスト8だったけれど、澤村くんは後悔のあるような顔はしていなくて、寧ろ自分の全力を出し切ったというような清々しい顔をしていた。

澤村くんは三年間で全部やり切ったんだ。

もう自分はやらないけれど、きっとこれからも続けるであろう彼らの成長を楽しみにしているんだ。

そう思うと将来もちゃんと考えられていない自分が情けなくて、澤村くんの隣に並んでも恥ずかしくない人になりたいなと心から思えた。

もう一回自分の受験校を見直し、将来を見据えて就職率とかも全部調べ直した。
願書の〆切まで残り少なかったから大変だったけれど、自分のやりたいことを見つめ直したいと親に言えばありがたいことに快く頷いてくれた。

受ける大学は少し変わったものの、今までやってきたことは変わらないから大丈夫だと言い聞かせて受験に臨むことができた。

結果は合格で、誰よりも早く澤村くんに知らせたくて『今少し話せる?』とLINEをすればすぐ電話がかかってきた。

『名字?』

「あ、澤村くん?今平気?」

『珍しいな、どうした?』

澤村くんと電話で話すのはこれが初めてで、いつもと違うその距離感に少し不思議な気持ちになった。

「あのね、第一志望合格したの」

『え、すごいな…おめでとう!』

「澤村くんががんばってるのみて私も頑張ろうって思えたから、その、一番に伝えたくて」

言っていてまるで告白しているような気持ちになって、だんだんと喋り方が尻窄みになっていったら澤村くんが『俺も名字の力になれてた?』と聞いてくれた。

「うん、勇気をもらえたよ」

『そっか…俺も名字に話聞いてもらってすごい力を貰えてたから嬉しいな』

澤村くんの少し照れ臭そうに笑う声が聞こえて、なんだか嬉しくなった。

「だからね、ありがとう」

伝えたい言葉はそれ以上にいっぱいあったけれど、きっと全部わかってくれると思ってその一言に全てを託した。

『俺もありがとう』

お互いお礼をいい笑い合うのが心地よくて、ふとこの先も一番近くにいられたらいいのになと思った。

『名字、次会ったときに伝えたいことがあるから聞いてくれるかな』

「うん、澤村くん私もね、伝えたいことあるの」

『同じことかな』

「同じことだと思う」

『じゃあ、また今度』

「うん、また今度」

電話を切って目を閉じると、澤村くんの笑顔が浮かぶ。
早く会いたいな。
そう思いながらベッドに寝転べば、いつもよりも心穏やかな気分で寝られる気がした。



花言葉:逆境に耐える


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