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会社の先輩に「この近所にイケメン店主のおるおにぎり屋ができたらしいからいかへん?」と誘われて、特に断る理由もなかったので「いいですよ」と二つ返事で了承した。

メイン通りからは少し外れたところにそのお店はあって、のれんには「おにぎり宮」と書いてあった。

先輩の言う通り新規オープンらしく店先にお祝いのスタンド花がいくつか飾られていた。
中からは女性の楽しげな声が聞こえ“イケメン店主”がもてはやされているのがよくわかる。

先輩に急かされ暖簾をくぐると、お米の炊けるいい香りがした。

店に入るまではあまり期待はしていなかったのだけれど、この香りは多分当たりだ。

最近はお昼も社食やコンビニで済ませていたため、おにぎりという食べやすい選択肢が増えるのは嬉しかった。

さてメニューは何があるのだろうかと店内にかかる下げ札を見た時、視界に店主が入った。

稲荷崎高校の私たちの学年で知らない人はいないであろう宮兄弟の片割れ、宮治。
まさかこんなところで遭遇するとは思わなかった。

先輩に「ほら、何のおにぎり頼むの?」と声をかけられて我に返ったけれど、一瞬息をするのを忘れるくらい驚いた。

「あ、えっと…おかかとネギトロでお願いします」

運ばれてきたおにぎりを食べたけれど、味なんてほぼわからなかった。



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