10

庭の方へ行くとやはり一静さんはそこにいて、私が来るのを見て手を振ってくれた。

「一静さん!!!」

揶揄われたことがわかった怒りをそのままに名前を呼べば「その様子だとバレた?」と可笑しそうに肩を震わせた。

「婚約するって知ってたんですね!?」

「じゃないと手出さないよ」

「一言言ってくれたってよかったじゃないですか!」

「それじゃ面白くないかなって」

ニコニコと笑いながら酷いことをいう一静さんに地団駄を踏んだら我慢できないと言わんばかりに大声で笑われた。

「意地悪すぎやしませんか」

「そんなとこも好きでしょ?」

「一静さんばっかり余裕そうでズルいです」

「俺も名前さんのこと手に入れるために頑張ったんだけどなあ」

そう言われれば、彼の家の会社を吸収するのは当然のことながら大変で、私のためにそれをしてくれたというのだろうか。

信じられないと瞬きをすれば一静さんは「欲しいものは手に入れたくてね」と目を細めて口角を上げた。

「今度からは草の間からじゃなくて扉から外に出られるよ。俺が名前さんの行きたいところへどこでも連れて行ってあげる」

「本当ですか?」

「うん、もう自由なんだよ」

一静さんの言葉に、今まで縛られていたものが全部解かれて、息苦しさもなくなった気がした。

久々に大きく息を吸うと草花の香りが鼻を掠めて、清々しい気持ちになった。

この先もこうやって一静さんと季節を感じていけたらいいなと心の中で思った。



back