08
今日来て思ったのは意外とみんな結婚してなくて、変に焦ってたのは自分だったのかと実感した。
気負いすぎていた自分を反省してため息をついたら、隣から声をかけられた。
「幸せ逃げてまうで〜」
一瞬びっくりしたけれど、よく見ればそれは治くんで「逃げる幸せなんかありませ〜ん」と悪態をついた。
「名前ちゃんは変わらへんな」
「そういう治くんかて変わってへんで」
「当時より男前になったと思うんやけど?」
ニヤリと笑った顔に、治くんの片割れの顔が重なった。
「自分で言うてたら世話ないわ〜」
「言うようになったなあ」
久々の会話なのにあの時のままで、懐かしさが込み上げる。
「で、治くんはなんでここにおるん?」
「かわいこちゃんに変な虫がつかんように見張っとる」
「え、なにそれ私のこと?珍しいこと言うやん」
「せやねん、俺の片割れがずっと片想いしとる子やから捕まえとかんとうるさくてかなわなくてな」
治くんの言葉にギョッとした。
「え、待って、もう十年経つよ?」
「俺もそう言っとるんやけどな」
「嘘でしょ?」
「嘘だと思うならあっち見てみい」
治くんの指さしたほうをみれば、すごい形相の侑くんがこっちへ向かってくるのが見えた。
「サム!!!」
今にも掴みかからんばかりの勢いで治くんに詰め寄って「名前になにしとんねん!」と怒った。
「お前が見つけられるように近くにおったんやろアホ」
面倒くさそうに掴まれそうになった手を払い除けて、私の方へむいて「お役目御免や。今度店来てな」と手を振って去っていった。
先程治くんが言った台詞が頭の中をぐるぐるしていて、信じられないという目で侑くんを見れば「サムと何話とったんや」とぶすくれた顔をしていた。
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