ライラック

小学校の時は恋よりも遊びの方が楽しくて、恋を自覚する年になってからは女子校で恋愛沙汰とは全くもって無縁だった。

初恋は誰?なんて聞かれるけれど特に思い当たる人もいなくてまだなんだよねと言えば驚かれる。

あまりにも男性慣れしていない様を見た親に女子校じゃなくて共学にすべきだったかもと頭を抱えられる始末で、友人に誘われて行った合コンも相手の男性と目を合わすこともできずに終わった。

もしかしてずっとこのままなのかな、と思っていた時に私にも恋の衝撃が走った。

その人は私が本屋さんで上の方の本を取ろうとした時に、後ろから「この本でいいの?」とサラッと取ってくれた。

なんてベタなんだろうと我ながら思うけれど、上から見下ろされた時の優しそうな目と穏やかな声色に一瞬で心を奪われたのだ。

あまりの衝撃に固まっていると「あれ、この本じゃなかった?」と困った顔をされてしまい、慌てて本を受け取って「すみません、一目惚れしました!お名前教えてください!」と叫んだのは今でも思い出すと恥ずかしくて死ねる。

「熱烈だなあ…。松川一静です」

そうふわりと笑った顔も格好良くって世の中にこんなに素敵な人がいるのかとびっくりした。

それから寝ても覚めても松川さんのことを考えるようになった。

また会えないかな、歳はいくつなんだろう、背が高かったな。

その話を友人にしたら「名前が恋!?明日は槍でも降るの!?」と失礼なことを言われた。

それから本屋さんに行ってはまた会えないかと期待したのだけれど、そう上手くもいかないもので会えない日々が続いた。

次に松川さんと会えたのは意外なところで、友人に誘われて行った文化祭に松川さんがいたのだ。

「松川さん!」

会えた喜びに周りの目も気にせず駆け寄れば松川さんは少し驚いた顔をして「この間の」と目を細めて笑ってくれた。

松川さんはどうやらバレー部でやっているたこ焼き屋さんの宣伝をしているみたいで「もう少しで上がりだからもしよければ案内しようか?」と聞かれたのでお言葉に甘えることにした。

友人たちは「私らは適当に周ってるから終わったら連絡頂戴」と言ってくれ、なんと松川さんと二人で周れることになった。

「ごめんね、お待たせ」

バレー部のたこ焼き屋は浴衣着用らしく、少しはだけた首元に色気が溢れててすごい。
格好よすぎる。

「いえ、お友だちは大丈夫でしたか?」

「折角会えたから一緒に周りたくて。この間名前聞きそびれちゃったから教えてもらってもいい?」

松川さんにそう言われて気づいたが、あの時は名前を聞けて満足して名乗らずに帰ってしまった気がする。

「ご、ごめんなさい!名字名前っていいます」

「名前ちゃん」

名前を呼ばれただけなのに胸が高鳴る。

「どこ行きたい?」

私に合わせて少し屈んで聞いてくれて松川さんとの距離が近くなり、目が合うと「どしたの?」とくすくす笑うその様にさっきから心臓のドキドキが止まらない。

気持ちが高まって、好きですと告白するまで後少し。



花言葉:初恋


お題:高鳴る初恋



back