01
稲荷崎の吹奏楽部には決して破ってはいけない決まりがある。
『運動部と付き合うべからず』
誰がそんなくだらない取り決めをしたのかわからないが、先輩の話によると以前仲良く付き合っていたのに試合直前に別れてしまい、吹奏楽部の応援演奏も試合も散々になったらしい。
それ以来吹奏楽部と応援を必要とする部活の生徒は付き合うのが禁止されたという。
別れたくらいで部活に支障がでるなんて本気に取り組んでいなかったんじゃないの?と思わなくもないが、思春期真っ只中の私たちにはたかが恋愛、されど恋愛なのだろう。
知らないで入った私も悪いのだけれど、吹奏楽が好きだったし稲荷崎の吹奏楽部は強い。
そこに入りたくて稲荷崎を受けたのだから今更入りませんとは言えなかった。
どうしてそこまでこの話に拘るのかというと、私が今絶賛片想いしている相手がバレー部の角名くんだからで、三年になって折角同じクラスになれたというのにその決まりが邪魔をしてただ見ているだけしかできないのだ。
まあ、その決まりがなくとも角名くんはあのバレー部のスタメンで私如き一般人がお近づきになれるわけもないのだけれど。
「名字さ〜ん」
物思いに耽っていたら侑くんに呼ばれた。
バレー部の主将である侑くんはよく吹奏楽部に顔を出す。
前主将の北先輩のときはそんなことはなかったのだけれど、侑くんは拘りがあるらしく指定がやたらと細かい。
まあ、それに応えるのが私たちの役目なので文句はないのだけれど、どうせなら角名くんがよかったなと思うのは許してほしい。
「名字さんって角名のこと好きなん?」
さっきまで曲について話していたのに、急にそんなことを言われて思わず咽せた。
「え、いや、決まりあるし…!」
しどろもどろにこたえれば「やっぱ好きなんやな〜」と返された。
「なんでわかったん?」
「バレー部の応援くると角名のことばっか見よるからそうなんかなって」
「そんなわかりやすい!?」
「他のやつは気づいてないと思うで」
その言葉にホッとした私は侑くんがその後に「知らんけど」と小さく言ったことを聞いていなかったし、侑くんの用事が終わった後「すまんな」と謝られたのが何でなのか全くわからなかった。
back