04

許せなかったのはあんなことをした彼にじゃなくて、された行為に気持ち良さを感じてしまい、ふとした時に甘い感覚が身体を支配する自分にだった。

日に日にその欲は増していって、彼のことを考えない日がなくなった。

彼を廊下で見かけるたびに目で追ってしまい、友人には「ついに名前にも春がきたか」と言われたけれど、あれは好きとかそんな可愛い感情ではなかった。

頻繁に見ていれば宮くんとも自然と目が合うわけで、彼はそんな私のことをみてさも面白そうに口の端を上げた。

そういう時は決まって後で呼び出される。

「随分物欲しそうな顔で俺のことみるんやなあ」

これ以上溺れたら戻れないのはわかっているのに、身体が、頭がもう言うことをきかない。

ただただ彼に触れてほしいと願うばかりで、例えそれがただの遊びだったとしても触れてくれるならばそれでもいいと思ってしまうのだ。

でもそんな遊びも宮くんにとってはただの暇つぶしで、私が捨てられるまでにそう時間はかからなかった。

廊下で目があっても逸らされる、不審に思って声をかけようとすれば逃げられる、そんなのが何回か続いて流石の私も避けられていることに気づいた。

何がいけなかったのか…いや、最初からなにもかもがダメだったのかもしれない。

共通の友人などいない私たちの関係はあっという間に切れた。

それから宮くんの悪い噂はパタリと止んだ。
春高の二日目で敗退したと聞いたし、バレーに打ち込むようになったのかもしれない。

私も三年になればすぐ目の前に迫る大学受験に気持ちを昇華できたし、あれは夢幻だったのだと自分に言い聞かせた。

そしてすっかりそんなことがあったことも忘れた今日、宮くんはおにぎり宮の店主として私の目の前にあらわれたのだ。



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