実葛
「あれ?治くん?」
街を歩いていたら懐かしい声が後ろから聞こえて、振り返れば高校の時の片想いの女の子がいた。
「名字さん…久しぶりやな」
「治くん前も背高かったけどまた一段と大きくなったなあ」
「親戚のおばちゃんみたいなこと言わんといてや」
「おばちゃんとか心外やわあ」
コロコロと笑う彼女は高校の時よりも少し大人っぽくなっていて、グレージュの髪色がとても似合っていた。
「大学東京行ったんやなかったっけ?」
「よう覚えとんね!」
東京に出た彼女の噂は共通の友人経由で聞いていて、確か社会人の彼氏がいて結婚秒読みだと言っていた気がする。
「帰ってきたん?」
そう聞けば先程まで笑っていた顔が少し悲しげに歪んだ。
「彼氏と別れてもうてな…」
「あー…すまん」
「ええねん、きっと東京には縁がなかったんや」
眉を下げたまま笑う彼女に「せやったら、ここにはいい縁が落ちとるかもしれんな」と言ってみたら、目をパチクリさせたあと「その発想はなかったわ」と笑ってくれた。
「こんなイケメンと会えたのも運命かもしれへんで?」
「あはは、幸先ええな!」
そう笑う彼女に少しだけ目をそらないでみる。
「え、本気なん?」
「高校の時の片想いの子がフラれて帰ってきてたから、そこにつけこんだろうかなとは思っとるよ」
「ええ…」
「声かけてくれてよかったわ、他の男にとられたらかなわんからな」
距離を詰めて頬に触れれば、彼女の顔はみるみるうちに真っ赤になった。
「名字さんは運命って信じる?」
そう問えば「今信じたくなったかもしれん」と小さい声で返してくれた。
花言葉:再会
お題:運命ってあるんだね
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