寒桜
二年生になった年の春に女の子から告白をされた。
話したことのない人だったし「申し訳ないけれど」とお断りすれば「知っていてほしかっただけなので、大丈夫です」と凛とした瞳でこたえられた。
告白を断られた子は大抵泣きそうな顔をしているのに対して、その人の表情は微動だにしなかったのが印象的だった。
どんな人なのだろう。
心に湧いた疑問はジワジワと大きくなって、その人のことを自然と探すようになった。
「赤葦、最近なんか探し物でもしてんの?」
木葉さんに聞かれて彼女の特徴を言えば「あー、2組の名字さんか?」と返ってきた。
なるほど、背があまり高くなかったので年下、もしくは同学年かと思っていたが、どうやら先輩らしい。
木葉さんの情報によれば笑ったところを見た人がいないというほどの無表情で、見た目の綺麗さも相まって“氷の女王”なんて呼ばれているらしい。
そんな人がなぜ俺に告白などしたのだろうか。
学年も違えば部活も違って、共通点なんて全く見当たらない。
しばらくそうやって観察していたら名字先輩から再度呼び出された。
「最近視線を感じるのですが、何かしましたか」
相変わらずの無表情で、何を考えているかわからない。
「先輩が笑ったらどんな顔をするのかな、と思いまして」
そう告げれば名字先輩は少しだけ目を見開いたあと「彼氏には見せるかもしれませんよ」とこたえた。
「じゃあ、付き合ってください」
「赤葦君は私のこと好きじゃないでしょう」
「まだ好きではないですけど、興味が湧きました」
「軽いのね」
「心外ですね」
お互い表情の読めない中での会話は言葉通りの意味しかわからない。
「でも、そういうとこも好きなんでしょう?」
少しだけ揶揄いを含んでニヤリと笑ったら、先輩の頬は少しだけ桜色に染まった。
「照れてます?」
「照れてません」
ああ、この人は無表情なわけではなく、感情の振り幅が極端に小さいだけなのか。
そう思うと途端に今まで見ていた表情が違った意味に思えて「先輩可愛いですね」と口にすれば名字先輩は今度こそ顔を真っ赤に染めた。
花言葉:気まぐれ
お題:桜色の頬
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