ベニバナ

夜も更けた23時、そろそろ就寝の準備をしようと部屋へと向かった時に手元のスマホが震えた。

こんな時間に電話なんて誰だと画面をみれば彼氏の二口堅治の名前が表示されていた。

いつも塩対応の彼から電話なんて天と地がひっくり返ってもありえない。
見間違いかと思ったけれど間違いなく堅治からの電話で、訝しみながら応答してみた。

「もしもし、名前?」

開口一番名前を呼ばれたが、普段の彼とは違ってややテンション高めの声が聞こえる。

これはかなり酔っているなと思い「酔っ払いからの電話は受け付けておりません」と言えば「つれねーなー、大好きな彼氏からの電話だろ?」と揶揄いを含んだ返答がきた。

「なに、私もう寝ようとしたんだけど」

「今さあ、お前の家の目の前いんだけど、開けてくんね?」

聞こえてきた言葉に驚いてドアまで走り鍵を開ければ本当にアパートの下に堅治がいた。

時間も遅いので家に招きいれたが、今までどんなに酔っ払ってもこんな風に家にきたことはない。

「本当どうしたの?大丈夫?」

心配してそう聞けば、堅治が私へと抱きついてきた。
鼻をつくアルコールの香りに思わず顔を顰めるが、堅治はそんなのお構いなしに抱きつく力を強くした。

「鎌先さんたちと飲んでたんだけど、あんま冷たくしてるとフラれるぞって言われた」

冷たくしてた覚えがあるなら普段から優しくしてくれればいいのに、それができないのは堅治の性格故だろう。

「いつものことだもん、気にしてないよ」

「名前は可愛いからモテるって」

「彼氏いんのにモテたって仕方ないでしょ」

「モテんのかよ」

「それなりにね」

堅治にしては珍しく落ち込んでいて、面倒なことをしてくれたと元同級生の脳筋野郎を思い出して心の中で殴っておいた。

「大丈夫だよ、好きなのは堅治だけだから」

「わかんねえだろ」

「わかんなくないよ、堅治しか好きじゃない」

そう言えば少し安心したのか抱きつく力が弱くなった。

「ほら、飲んできてフラフラしてるんだから早く着替えて寝ちゃいな」

「子ども扱いすんな」

そうは言っても先程までの態度はまるで子どもで、可愛いと思ってしまうのは仕方ない。

「一緒寝よ」

優しく抱きしめれば堅治も頷いて、二人でベッドルームへと向かった。

「愛してるよ、堅治」

おでこにキスを落とせば気持ちよさそうに目を瞑る堅治を見て、幸せだなあと思った。



花言葉:包容力


お題:あなたからの電話



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