「あ、お前今週の金曜空けとけよ」

「んー…あ、ごめんその日飲み会だわ!」

今週の金曜は名前の誕生日で、去年バレーボールの練習で忘れてたら散々文句を垂れてきたから今年はと思って店も予約済みだというのに飲み会だと?

「なんか用事でもあった?」

「や、別に…ないけど…」

「そ?ならいいんだけど」

今更誕生日お祝いしようと思って、なんて言えなくて出てきた言葉は情けない返事だった。

折角いい店を予約したのに勿体ない気持ちと、誕生日に予定を入れた名前への腹いせで会社の女子へと声をかけた。

受付事務の、可愛い女の子。

俺のことをみて顔を赤らめるあたりわかりやすくて面白い。

名前とはもう長い付き合いだけど、こんな新鮮な気持ち久しく感じてねえなとため息がでる。

昔はイベント事もちゃんと二人揃って祝ってたのに、これが所謂倦怠期ってやつなのだろうか。

終始楽しそうに終わったディナーに、受付の子は「二口さん、この後まだお時間ありますか?」と俺に聞いてくる。

迷ったけれど、別に浮気がしたいわけじゃねえしなと断ろうとした時に「堅治?」と名前の声が聞こえた。

「げ、名前」

「二口さん、お知り合いですかあ?」

わざと俺の腕に絡みついて聞いてくる女の子に面倒臭さしか感じない。
これはまずい。

「あ、お邪魔だった?」

名前から冷たい空気が流れてくるのを感じる。

「お前、飲み会って言ってたじゃ…」

俺が言い終わるよりも先に名前が俺の腕を取って「こいつ、私の彼氏なんで。お呼びじゃねえんだよ」とすごいドスの効いた声で言い切った。

「は、なにそれ!私の方が若いし可愛いから!」

「若さはいずれなくなる価値だってわからないなんてまだまだお子様ね。ほら、堅治行くわよ」

フン!と鼻で笑う名前に「あ、はい」と素直に従った。

しばらく歩いただろうか、急に名前が立ち止まって抱きついてきた。
驚いて名前の顔を見ると、ボロボロと大粒の涙をこぼしている。

「け、堅治私のこと嫌いになった?」

そう言った名前を見て自分のやったことながら最低だったと反省した。

「悪い、お前の誕生日に予約したんだけど飲み会って言うから…腹いせに誰か他のやっと行ってやろうって思った」

「嫌いになってない?」

「寧ろ俺のこと嫌いにならないわけ?」

「ならないよ!飲み会入れたの私だし…」

それでも、誰のための誕生日なのか考えるべきだった。
名前の喜ぶ顔が見たくて予約したのに。

「ごめん…」

謝ることしか出来ない俺に名前は涙を拭いて俺を見た。

「いいよ、私が好きなんだもん。他の人好きになったとしてもまた振り向かせるから。覚悟しててね?」

上目遣いで言われた言葉に、完全に心臓を射抜かれた。

倦怠期なんて思っててごめん。
俺の彼女マジ格好いい。

「俺、もう二度とこういうことしねえわ」

「そ?」

「ケーキ予約してあるから取り行って食おうぜ」

「いいね!」

「俺お前のこと一生幸せにするわ」

「え、なにそれ急にどうしたの」



花言葉:私はあなたのとりこ


お題:キュンとくる瞳



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