03

早弁をしてしまった上に財布を忘れてきて空腹で死ぬかと思った日に、何やら美味しいそうな香りのする子と出会った。

その日はツムに金借りようとしても「俺の財布には100円しか入っとらん!」と言われ、覗いてみたら100円すら入ってなくて諦めた。

なんか食うもん…と廊下をフラフラしてたら階段の方が甘い香りがした。
発生源は女の子の持っとる袋で、あまりのええ香りにつられてフラフラと後ろをついていった。

みんなが俺のことを指差してなんか言っとるけど、そんなのも気にならないくらい袋の中が気になった。
絶対あれには美味しい何かが入っとる。

しばらく後ろについていたら流石に気付いたらしく、その女の子は俺の方を向いてギョッとした顔をした。

「なあ、それからええ匂いするけど」

聞いてみれば袋の中身はクッキーで、そんな魅惑的なもんをなんで持っとるんやとジッとみればどうぞと俺に袋を渡してくれた。

食べたら口の中でサクサクといい音を立てて、甘すぎない上品な味が広がった。

「美味いな!」

思わず声が出て、こんな美味しいお菓子を作れる子に興味が湧いた。

スリッパのカラーからして、下級生。

部活の時に一年に聞いてみたら「名字さんですかね」と心当たりがあるみたいやった。

次の日言われたクラスに行ってみるとその子はいて、相変わらず甘い香りが鼻をくすぐる。

手を差し出せば困った顔はするものの、袋ごとくれるのでありがたくいただいた。

今日はマフィンで、バナナがはいったそれは腹持ちもよくて放課後の部活まで俺の腹はもってくれた。

「なんやサム、幸せそうな顔しとるな」

「運命の出会いをしたんや」

そうこたえればツムは「きっしょ!」と顔を顰めたけれど、これは絶対神さんが俺のために用意してくれた出会いやと思う。



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