アガパンサス

「いらっしゃいませ!」

いつも通り笑顔を顔に貼り付けて店内入り口へ目を向ければ、学校のクラスメイトがいた。

「あれっ、名字さんじゃん」

「や、夜久くん…」

「うちの学校ってアルバイト禁止…」

「言わないで!!!!」

なんて運がないんだろう。
わざわざ学校から遠くて誰にも見つからないようなところを選んだのに。

よりによって同じクラスの男子!
しかも接点のない!!

「あの、学校には言わないでもらってもいいですか」

「えー、どうしよっかな」

「アイス!アイス奢るから!!」

「ぶはっ、アイスて!!」

「不満!?今なら肉まんもつけるよ!?」

お腹を抱えて笑う夜久くんに「こっちは必死なのになんで笑うの」嘆けば「ご、ごめんごめん。別に言わないから」とまだ笑いが収まらない様子で返された。

「名字はこの後何時まで?」

「え、交代の人来たらだからもうすぐだけど」

「じゃあ外で待ってるから送ってくよ。遅いし…笑っちゃったお詫び!」

「じゃあ、後でな!」と私に手を振り外へ出て行く夜久くんに、少し胸がときめいた。

その後すぐ交代の人が来て、あまり待たせることなく外へと出られたと思う。
それでも今日は暑かったし、外で待つのはなかなかに申し訳なかった。

「ごめん、暑かったよね?」

「もう夜だし、そんな暑くないから大丈夫だよ」

「あ、これ賄賂のアイスです」

「賄賂て!!」

夜久くんは笑いのツボが浅いのかよく笑う。
話したことなかったけど、こんないい人ならもっと前に仲良くなりたかったなあと思った。

「ま、ありがたく貰うわ。サンキューな!」

「夜久くん家どこなの?」

「この近くだよ。名字は?」

「私も向こうの通り入ってすぐのとこ」

「なんだ、ご近所さんだな」

「会ったことないよね?」

「俺部活で朝早くて夜遅いからな。名字は家庭科部だろ?」

「うん…って、なんで知ってるの?」

やべ、なんて言って目線が泳ぐ夜久くんに「どうして?」ともう一度聞けば夜久くんは「やー…仲良くなりたかったから…?」とそっぽを向いて頬をかいた。

「もしかして私があそこで働いてるのも知ってた?」

「や!それは本当に偶然!」

慌てて否定する夜久くんを見て、もし偶然じゃなくても悪くなかったなと思った。

「私、今日会えてよかったな」

「名字、それって…」

「あ、ここうちの家。送ってくれてありがとね!」

「ちょ、名字!」

「またお店来てね!バイバイ!」

家のドアをくぐり「ただいま!」と親に言えば「あら、あんたいいことあったの?」なんて聞かれた。

早く明日になって学校で夜久くんに会えますように!



花言葉:恋の訪れ


お題:フレッシュな恋



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