杜若

部活帰りに研磨と公園の近くを歩いていたら、男女の言い争う声が聞こえて目を向ければ同じクラスの名字とその彼氏がいた。

「最近のお前可愛くねーんだよ」

「だからってあんなことしなくてもいいでしょ!?」

「そういうとこが無理なんだって」

「…わかった、別れる」

「最初からそう言えばよかったんだよ」

どうやら別れ話の最中で、たった今それが成立したらしい。

名字が彼氏の元から離れようとこちらを振り返った瞬間、目が合った。

しまったと思った時には遅くて名字に「見苦しいとこみせてごめんね」と謝られた。

彼氏の方はサッサといなくなったみたいで、この気まずい雰囲気をどうにかしようと「あんなフラれ方するやつと付き合ってたとかお前も見る目ないなー」と茶化した。
普段の名字なら「本当だよねー」と笑って言ってくれるだろうに、余程堪えたのか大粒の涙をこぼして「ごめん」とだけ言って走り去っていった。

「うわー、クロ今のはやっちゃったね」

そう研磨に言われて、己の馬鹿さにため息をついた。


次の日、共通の友人から呼び出されたので何かと思えば「黒尾昨日名前がフラれるとこみたんだって?」と聞かれた。

「あー、たまたま」

「名前が黒尾と気まずくて言えないっていうから頼まれたんだけどさ、あれ、二股かけられた挙句フラれたんだって。急に泣いていなくなってごめんって言ってたよ」

友人から聞かされた言葉は俺の頭にガツンときた。

「え、待って…マジか…」

「どうせ茶化したんでしょ?悪いことは言わないから早く謝りなよね」

「そうする…」

ところが、今日何回か名字に謝ろうと声をかけたのだが、すぐに違う話題へと逸らされてしまいなかなか謝ることができなかった。


放課後、名字が一人教室に残っているのを見つけた時には今しかないと思った。

逃げないように手を捕まえて「名字、頼むから聞いて」とお願いすれば「謝られたくないの」と首を振られた。

「でも、茶化していいとこじゃなかっただろ。あれは俺が悪い」

「見る目なかったのは事実だから」

名字はため息をついて「二股するくらいならする前にフってくれればいいのにね」と項垂れた。

「しばらく恋愛なんてしたくないけど、次は私のことだけ見てくれる人と付き合いたいな〜」

そう溢した名字に、お前の目の前にいんだけどなと思った。
名字に彼氏ができても、こっぴどくフラれていても好きで諦められないしつこいのが。

「名字ならすぐ見つかるだろ」

「そ?黒尾は彼女のこと大事にしそうだよね〜」

他意はないであろう名字の言葉に「そりゃ大事にしますヨ?ま、好きな子には振り向いてもらえないんだけどな」とふざけた口調で返す。

「黒尾好きな子いんの?」

「そそ。彼氏にフラれて泣いちゃうような可愛らしい子なんだけどネ」

「え、待って…嘘でしょ…?」

「俺なら他の女の子なんか見ないのにな〜って思ってますよ」

「ちょっ、え」

「甘やかすのは得意だけど、どう?」

名字の顔を見れば真っ赤で。

「大事にされたいならオススメ物件だけど?今ならなんと名字が望むスパダリ仕様にもなれますヨ?」

「黒尾がスパダリ?なにそれ、面白そう」

やっと笑った名字に安心した。

「ま、今は考えらんないだろうけど俺は本気だからさ。考えといてよ」

頭を撫でて「じゃ、俺部活行くな」と手を振ると「そんなにオススメなら予約しとこうかな。部活がんばってね」と手を振りかえしてくれた。



花言葉:幸せは必ずくる



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