ヒヤシンス
「あれ、名前香水変えた?」
「そう!好きなブランドの新作でてて早速つけてきちゃった」
教室の窓側の席で友人と楽しそうに話しているのは俺の彼女である名前で、付き合ってはいるが彼女の意向から未だにその関係は他の人へ教えていない。
バレーボール部のマネージャーである名前はレギュラーとの恋愛をよく思っておらず、この関係になるまでもかなりの時間を要した。
まっつんあたりは多分気づいているけれど、口にしないのを見る限り俺たちへ配慮してくれているんだろう。
名前の気持ちはわかるけれど、付き合っていることをバラしてしまえばいいのにと何度思ったことだろう。
「おーい、名前」
教室の外からマッキーの呼ぶ声が聞こえた。
「花巻、どうしたの?」
「部室の鍵持ってたりする?朝練で忘れ物したから取り行きたいんだけど」
「持ってる!待ってね…えーと…あった!」
名前 のところへマッキーが鍵を取りに行くと、一緒にいた友人が「あれ」と声を上げた。
「名前と花巻くん、香水同じじゃない?」
頭を鈍器で殴られたような衝撃を感じた。
いや、二人のことだからたまたま同じ香水を買っただけなのはわかる。
しかし、彼女が他の男と同じ香りを身に纏っているのが大問題で。
「え?本当?」
名前は匂いを嗅ごうとマッキーに背伸びをして近づいてるし、マッキーもマッキーで名前へと顔を近づけている。
「もしかして二人付き合ってんの?」
名前の友人がそう聞くのも無理はない。
二人の距離は恋人のそれで「そんなことないよ〜」なんて笑う名前の言葉に説得力はない。
その光景が一日中頭から離れなくて、気が狂うかと思った。
放課後、部活を終えて部室で名前と二人きりになった時に思わず扉の鍵を閉めた。
「名前」
「及川、待ってくれてたの?」
「二人きりの時は名前で呼んでって言ってる」
「あれ、不機嫌だね。どしたの?」
何もわかっていない名前に苛々する。
ベンチへと組み敷けば、香水の匂いが鼻へ漂ってくる。
マッキーとお揃いの香水の香りが。
「え、ちょっと待って徹…本当どうしたの…」
俺の様子が変なことに気づいた名前は抵抗したけれど、力で男の俺に敵うわけがない。
「ねえ、マッキーとお揃いなんだって?」
「たまたまね?」
「名前は誰の彼女なの」
「徹だけど…」
「俺のなのになんで他の男の匂い纏ってんの?」
押さえつけたままシャツへと手を伸ばしボタンを外すと白い肌が露わになり、そこへ紅い華をきつく咲かせていけば、羞恥心からか瞳を潤ませる名前の顔が見えた。
「徹…やめて…」
蚊の鳴くような声で訴える名前に煽られ、下半身が疼くのがわかる。
「やめてって言う割に、感じてるみたいだけど?」
反論をする前に名前の唇へ深くキスを落とすと、隙間から甘い声が漏れた。
息を吸うのも許さないくらいしつこく舌を絡めれば抵抗する力もなくなったのか、だらしなく喘ぐ名前に「ほら、嫌なら抵抗しなきゃ」とわざと挑発をする。
「このままヤられていいの?」
最後の抵抗で首を振る名前に「じゃあ、やめてあげる」と手を離すと、ホッとしたような期待が外れたような複雑な顔をされた。
泣きそうな名前に「今度から俺以外の男の香りつけてこないでね」と言えば首を縦に振ってくれ、次の日から名前は俺の香水と同じものをつけるようになった。
友人に今度は及川と同じなの?と揶揄われたときに「彼氏だから」と言っていたので、俺の勝利ってことでいいと思う。
花言葉:嫉妬
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