無花果

「名前、黄色のデオドラントウォーターのキャップ手に入った?」

「探してるんやけど話したことない人が多くてなあ」

「あの香り使ってんの男子が多いもんな〜」

「せやねん、急にキャップ交換してくださいなんて言えへんのや」

高校二年生の夏、学校中でデオドラントウォーターのキャップを交換するのが流行った。

誰がやり始めたのかは知らないが、カップルで交換したり仲良い友だちと交換したりと色々で、本体の種類も多いことから自分の好きなキャップと本体とを合わせるのが楽しいらしい。

俺自身も交換していて、自分の好きな香りの紫のボトルと黄色のキャップになっている。

ただ俺のはカップルとか友だちとかそういうのではなく、ツムが「お、紫のキャップええなあ!俺にくれや」と勝手にキャップを持っていってしまい、残ったツムのキャップをつけるしかなかったのだけれど。

先程会話していたのは同じクラスの女子の名字さんとそのお友だちで、俺の気になっている子だったりする。

女子の中では“好きな人と交換してその中身を使い切ると両想いになれる”というおまじないも流行っているみたいで、“女子が男子にキャップ交換をお願いする=告白”という受け止め方もあるらしい。

名字さんは特定の誰かのキャップが欲しいわけでもなさそうなので、他の男子から貰うくらいなら俺のキャップをあげた方がいいのではないだろうか。

そう思っていたら休み時間にたまたま名字さんと話す機会があって、そういえばなんて思い出したように話題を振ってみた。

「名字さん黄色のキャップ探してるんやって?」

「え、あ…まあ、うん」

「俺のでよければ交換しよか?」

「治くんのはいらへん!」

「えっ」

「あ、ちゃう…そうやなくて…ごめん!!」

すごい拒絶を食らってビックリしたら、言った張本人の名字さんも驚いた顔をしていて、そのまま気まずそうに走って逃げていった。

反応を見る限り嫌われているとかではないと思うのだけれど、何であんなに拒否られたのかが全くわからなくてその日一日中悩んだ。

それ以降も名字さんは黄色のキャップを探し続けているみたいだったが、ある日嬉しそうに交換してもらえることを友だちに報告していた。

「やっと交換してもらえるん?」

「そう!侑くんに言ったらどうせ使うから新しいの買うたときにくれるって言ってくれて、今日そのキャップ交換してくれるって約束したん!」

「侑くんと交換て、交換相手も百点やん!」

「せやろ?聞いてみてよかったわ〜!」

どうやらツムと交換するみたいで、なんで俺のはダメでツムのはええんやと本気で落ち込んだ。
しかも交換相手も百点って、もしかして名字さんの好きな相手がツムやったりとかするんやろか。


その答えは意外と早くわかって、昼休みにツムが俺のクラスへと来たことがきっかけやった。

「名前ちゃん!約束のやつ持ってきたで〜!」

「侑くん!ほんまにええの?」

「当たり前やん!俺のやないとダメなんやろ?」

「理想はな!やっぱ侑くんのが一番ええねん」

側から聞いたらバカップルのそれだが、二人は付き合ってないはず。

「え、名字さんと侑って付き合ってたん?」

「いや、ちゃうよ。名前ちゃんは好きな人おるもんな〜」

「ちょ!侑くん!」

「俺のキャップがええっていうのもサムが使っとるキャップが…あ…」

「あ、侑くんのアホ!!!!ここ教室やで!?」

やってしまったという顔のツムと目が合い、視線を名字さんに向けると茹で蛸のように真っ赤に染まった顔が見えた。

「俺とオソロにしたかったん?」

思わず聞いた言葉に、名字さんは小さい声で「ごめん、引かんといて…」と呟いた。

「サムは名前ちゃんのことずっと好きやったから平気やで!」

「なんでお前が言うんや!!それは俺のセリフやろ!!」

「サムが言わんから俺が言うたんやろ!」

「クソツム!!」

「ほれ、早よ言わんかい」

「名字さん!好きや!付き合うて!!」

半ばやけくそに言った言葉だったけれど、名字さんは確かに首を縦に振った。

俺のおかげやな、なんてドヤ顔をしたツムをとりあえず殴って名字さんの手を取ると「よろしくね」と真っ赤な顔で笑ってくれた。



花言葉:実りある恋



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