03

警察が来るまでの間彼女は一言も喋らなかった。

何個か話題を振ってみたものの、また先程までの暗い瞳に戻ってしまって俺の方を見ようともしない。

「お話をお聞きしたいので署までご同行願えますか?」

警察官の人がそう言ったのに対し彼女は頷き「その人も行かないとダメですか」と小さい声で聞いた。

「目撃者ですので、できれば来ていただきたいんですが…」

「構わないですよ」

俺が了承するのを見て、名字さんはため息をついた。

関わられたくないのか、申し訳ないと思っているのかはわからない。

事情聴取は1、2時間ほどで終わったが、思い出したくないことを何度も聞かれている様は見ていて気持ちいいものではなく、体感は何時間も拘束されているかのようだった。

警察署から出た後「ありがとうございました」とボソリと言われたけれど、彼女はこれからどうするのだろうか。

「名字先輩、今家一人なんじゃないですか?」

心配で出た言葉だったけれど彼女はひどく驚いた顔で俺の方を見た。

「俺、この間先輩のお父様のご葬儀担当したんですけど…その様子だと覚えてないですかね」

「あの時の…ごめんなさい…」

「いや…別にいいんですけど、この後一人って大丈夫ですか?」

一瞬、瞳が揺れたのを見た。

一人にするのはまずいな、そう直感がいっている。

「岩泉たち、海外行ってるし頼れるヤツいないんですよね?俺の実家でよければ人いるんで来ませんか」

なかなか頷いてくれない名字先輩に、ダメ押しで一言付け加えた。

「岩泉たちに今の先輩の状態伝えてもいいんですか?」

「一と徹には言わないで!!!」

こんなに大きな声がでるのかと思うくらい、悲鳴に近い声で叫ばれた。

「言わないですよ、迷惑かけたくないんでしょ?心配なんで、俺ん家来てくれますか?」

渋々頷いた先輩に、海の向こうにいる元チームメイトの顔を思い浮かべた。

岩泉も及川もこの現状を知ったらきっと心を痛める。
できることならあいつらが悲しい顔をするのは見たくない。
少しでも彼らの心配の種を次に会う時までに減らせたらいいなと思った。



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