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あの子のことを知ったんは、うちのお店によくくる人が街で一緒に歩いてたのを見たのが初めやった。

たまたまお店が休みで、することもないし街でもブラつこうかなと目的もなく歩いとったら人混みの中に常連さんの顔が見えた。
仲もええので声をかけようとしたときに見えた隣を歩く女性。

そちらは知らない子だったのでこれは声をかけない方がええなと思いとどまった時にその子がふわりと常連さんに笑いかけた。
それを目にした俺は、今時こんなことあるんか?っていうくらい胸が高鳴り、恋に落ちた。

それからというものお店に常連さんが来るたび「隣におった子誰なんですか?」とか「うちのお店連れてきてくれんのですか?」とか聞いてそれを見たツムに「ストーカーか!キショ!」と言われた。

常連さんにも「治くんイケメンが台無しやな!」と笑われる始末。
「そんなに笑うなら連れてきたってくださいよ」とダメ押しするも「まあ、あの子が行くって言うたらかな〜」とかわされた。

名前も知らないあの子、早ようちのお店に来んかなあと思っていたある日のことやった。

その日は土砂降りで、お店も閑古鳥が鳴いていた。
お客さんも来おへんし、もう閉めるかなと思っとったらずぶ濡れの女の子が飛び込んできた。

「いらっしゃいませー」

いつものように声をかけたら、その子は濡れた髪をあげ店内を一瞥した。
顔を見て驚いた、俺がずっと会いたいと思っとったあの子やった。

めっちゃドキドキしたが、向こうは俺のことなんか知らんので決して顔には出すまいと頑張った。
お一人様やから、カウンターへ。
はじめてのお客さんやから、オススメを伝える。
なるべく普段通りに、不自然さがないように。

あの子は俺のオススメの通りに頼んでくれて、ついでに豚汁も勧めればそれもお願いしてくれた。

美味しくてまた来たいと思ってもらえるように、ここ最近の中で一番緊張しながら握ったと思う。

「お待ち〜」と言って差し出すと、彼女はネギトロから頬張った。
はふはふ食べてハムスターみたいやった。

かわええなあとバレない程度にチラ見したら、ものすごく幸せそうな顔をして食べてくれとった。
花が周りにいっぱい飛んどるような、そんな顔。
アカン、心臓が破裂する。めっちゃかわええ…!

食べ終えると彼女は悩んだ顔をして、テイクアウトもしてくれた。
「まいど〜」なんて気の抜けたような声で返したが、内心ガッツポーズや。

会計を終えて、彼女がずぶ濡れだった理由を思い出し、押し付けがましくないよう店の傘を貸した。
これで返すために絶対また来てくれはるはず!

外は土砂降りで閑古鳥も鳴いて今日はクソみたいな日やと思っとったけど、そんなことあらへんかった。
梅雨様様、ほんまありがとお!!



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