イベリス

隣の席の宮くんはいつも窓の外を見ている。

授業中、先生が何を話していても板書も取らずに眠そうな顔でぼんやりとしていて、たまにノートに何か書いているのを見るけれど角名くんに見せて笑い合ってるのを見ると多分落書きかなんかだと思う。

そのくせテスト直前になるととっていないノートを仲のいい友だちに写させてくれと頼んでいる。

最初からノートを取っていればいいのに、なんで毎日毎時間窓の外ばかり見るのだろう。

窓の外に何かあるのかと気になって一回だけ少し早く教室へ来て宮くんの席から覗いてみたけれど、特にこれといったものはなくただグラウンドが目の前に広がっているだけだった。

最初はグラウンドに好きな子が体育でもしているのかと思ったけれど、毎時間見ているので多分違う。

宮くんには私に見えない何かが見えているんだろうか。
それとも偶然見える何かを見るためにずっと見ているのだろうか。

気になってしまうと理由がわかるまで落ち着かなくて、私まで窓の方を見るようになった。

友だちには「あんた治くんのこと好きなん?」なんて聞かれてしまったけれど、決して宮くんが好きなわけじゃない。

宮くんの瞳に映るものが気になるのだ。

あのグレーの瞳には何が映されているのだろう。

窓の外を見るようになってから何日か経った時に、宮くんと視線が絡まった。

いつも向こうを向いている宮くんが今日はこちらを向いていて、しかも何故か私のことを見ている。

『な』『に』

口パクでそう聞けば宮くんの口は弧を描いた。

返事をしてくれるわけでもない宮くんに気まずくなって顔を前に向けたけれど、宮くんは変わらず私の方を向いたままだった。

授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、意を決して宮くんへ「なんで見とったん?」と尋ねたら「名字さんがこっち見とったから俺も見てみた」と笑われた。

「最近俺の方よく見とるやん」

なるべくコッソリと見ていたつもりだったけれど、宮くんにはバレていたらしい。

「宮くんがずっと窓の外見とるから、何見とんのかなって気になったんや」

「窓の外…?」

宮くんは眉間に皺を寄せて怪訝そうな顔をした。

「いつも窓の外見とるやろ?」

「見とらんけど…」

「ええ!?じゃあ何見とんの?」

そう聞けば「ああ、いつも見とるのは名字さんやで」と返された。

「え」

「窓に映る名字さんの顔、見とったんや」

宮くんの言葉に段々と顔に熱が集まるのがわかる。

「こっち見てくれんかなあって」

「そしたら最近良く向いてくれるようになったから今日は窓やなくて名字さんのこと直接見てたんや」

フッフ、と笑う宮くんは揶揄うような目をしていたので本気かどうかわからないけれど、宮くんの絡みつくような瞳に私の心臓は大きな音を立てた。

「ずっと可愛えなって見とったんやで」

なんて返したら分からなくて言葉に窮していたら、次の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響いた。

先生が入ってきたので前を向いたけれど、宮くんはその授業中もずっと私の方を向いていた。

チラリと宮くんを盗み見れば『好きやで』と唇が動くのが見えた。



花言葉:心を惹きつける


お題:こっちを見て



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