アスター

「あれ、赤葦くんどうしたの?」

「名字さんこそ」

俺らがばったり会ったのは修学旅行の二日目、夜中にコッソリ抜け出した旅館内にある庭園だった。

入り口はロビーのソファに先生が座っていて流石に抜け出せないけれど、庭園の方は露天風呂へと続く道で先生たちも手薄だと去年行った木葉さんが言っていた。

勿論悪いことをするつもりはなくて、ただいつもと違う環境に眠りが浅く少しだけ夜風に当たろうと思ってきたのだ。

だからまさかこの時間にこんなところで名字さんに会うとは思わなかった。

「露天風呂入りにきたの」

「バスタオルも持たずに?」

なんとも適当な言い訳をする名字さんに思わずつっこめば「あ、そっか…バスタオルか〜」なんて呑気に笑われて。

「で、本当はなんで?」

「今日ね、オリオン座流星群が見られるんだって。流星群って見たことないから見てみたくてさ」

「そういえばテレビでやっていたね」

「いっぱい流れればお願い事叶うかもしれないでしょ?」

空を見上げて楽しそうに笑う名字さんに「何時からなの?」と尋ねれば「そろそろなんだけど」と時計を見てこたえてくれた。

「俺も一緒にいい?」

「赤葦くんも叶えたいことあるの?」

「特にはないけど、折角だから流星群見たいなと思って」

近くに置かれたベンチへと二人で座り、まだかな〜なんて言いながら空を見上げるこの時間はどこか不思議な感じだった。

「あ、今流れたかも」

「え、どこ?」

「あ、ほら…わあ…すごい…」

見上げた空から降ってくる星はとても多くて、秋の澄んだ空は星の輝きをより一層綺麗に見せてくれた。

「お願いごとしなくていいの?」

「あ、忘れてた」

間抜けな声をだした名字さんを笑えば「赤葦くんもほら、お願いしないと」と少し拗ねた口調で急かされた。

「3回言うんだっけ?」

「そう、噛まないようにしなきゃ」

「名字さんは噛みそうだな」

「失礼だな〜。いっせーのせで言おうよ」

「いいけど、なんで?」

「なんでもいいじゃん、いくよ?」

いっせーの…せ!

「紅葉の写真を撮りたい」

名字さんは素直に言葉にしたけれど、確か心の中でもオッケーだったはずなので俺は口には出さないで3回お願い事を唱えた。

「え、ちょっと!赤葦くんなんで言わないの!」

「願い事って人に言うと叶わないって言うから」

「ずるくない?」

「それより紅葉の写真って?」

「貴船神社の紅葉の写真が撮りたいんだけど、あそこ人多いからどうしても人が写っちゃうの。折角この時期に京都に来れたから一瞬でもいいから撮れたらなって」

そう言われれば名字さんは写真部だった気がする。

「コンテストにでも出すの?」

「や、それはもう決まってるから」

「へえ…どんな写真出すの?」

「内緒!」

「ふーん…いい写真撮れるといいね」

「うん、ありがとう!」

名字さんと話していたら段々眠気が襲ってきた。

「そろそろ部屋に戻るね」

「私も戻ろうかな」

「危ないしそうしなよ」

「結局赤葦くんは何をお願いしたの?」

「内緒」

ケチだのなんだの文句を言う名字さんに「来年も名字さんと同じクラスになれますようにってお願いしたんだよ」と告げれば暗闇でもわかるくらいに赤く染まった頬が見えた。

「赤葦くん、コンテストの写真ね、赤葦くんがバレーしてるとこなの」

「一年の頃から好きだったの」

消えそうな声で呟かれた言葉は俺への告白で、たまらず抱きしめれば「返事くださいな」とくすぐったそうに笑われた。

「俺も好き」

俺の願い事も名字さんの願い事も叶うかはわからないけれど、流れ星を一緒に見ると仲が深まるというのは本当なのかもしれない。



花言葉:信じる恋


お題:あなたと見上げる星



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