05

次の日、仕事が休みだった俺と名字先輩は、しばらく泊まるために必要な服や日用品を先輩の家へと取りに戻っていた。

「本当にお世話になってもいいの?」と先輩は不安がったけれど、このまま先輩を一人にするのはまだ心配だった。

「俺の母も久々に家が賑わって嬉しいって喜んでいたので先輩がよければ泊まってください」

「そう…?なんか申し訳ないなあ…」

そう言葉では言っていたが、名字先輩の顔は少し嬉しそうだった。

先輩の家へ着くと、お線香の香りが部屋に漂っていてまだ亡くなって日が浅いことを実感する。
祭壇も俺が用意した時のままで、花だけが少し枯れていた。

「お骨、どうしますか。持っていくなら部屋に後飾りを設置しますけど…」

名字先輩は少し迷って「私、父とあまり仲が良くなかったの」と口にした。

「それでも近くにいた方がいいのかな」

「俺は先輩の家のことはわからないです。でも故人の想いも大事ですけど、まずは自分の気持ちを優先すればいいと思いますよ。そうすれば自ずと答えはでてきますよ」

「その考えは目から鱗だったなあ…。そっか、私の気持ちを優先していいのか…」

憑き物が落ちたような顔で言う先輩に「そうですよ、生きてるのは俺らなんですから」と言えば「葬儀屋さんがそんなこと言っていいの?」と笑ってもらえた。

そうか、この人があんなに暗い顔をしていたのは生前の父親との関係から自分を責めていたのか。

「建前は故人を偲んでくださいっていいますけどね。あくまで建前ですから、いいんですよ無視しても」

俺の言葉に小さくありがとうと言う先輩は、ご葬儀の時よりも幾分か柔らかい顔になっていた。



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