02

花巻くんと月曜のスイーツ巡りが定着してきたころのことだった。

花巻くんが珍しく嬉しそうに私へ駆け寄ってきて「今度の土曜、体育館が使えなくなったからこれ行かないか!?」と私にスマホをみせてきた。

スマホを受け取って画面をみてみると『土日限定スイーツ食べ放題』の文字。
しかもカップルでいくと限定のプレートを出してもらえるらしい。
なるほど、それが目的か。

これは私も一人で行っては食べられないので、二つ返事でOKをだす。
「何時に行く?」と言われたので、「お昼ご飯の代わりにスイーツビュッフェでしょ!」と返せば「さすが〜」とニヤリと笑われる。

そしてスイーツビュッフェ当日。
いつものように地味な格好で家を出ようとしたら、珍しく朝起きていた姉に捕まった。

「名前が土日に外出るなんて珍しいじゃんどこ行くの〜?」

「友達とスイーツビュッフェ行くんだ」

男友達とでかけるなんて言ったら絶対うるさいのでさっさと会話を切り上げて家を出ようしたが、こういうセンサーは抜群の姉である。
なかなか離してもらえない。

「折角の休日なんだから可愛い格好してけばいいのに」

「別に気にする人じゃないから…」

「ん、‘気にする人’?待ちなさい名前。男だね?」

しまった、バレた。
思った時にはもう遅くて私は姉に眼鏡を外され化粧を施され、あーでもないこーでもないと着せ替え人形にされた。

花巻くんがこの格好をみたら絶対気合入れてるって引かれると思い気が重くなる。
いつも通りでよかったのに…とため息をつくも元の格好に着替える時間もないのでそのまま待ち合わせ場所へと急いだ。

『今ついた。名字さんどこにいる?』

『ごめん、支度に手間取って今電車から降りたとこ』

『OK、改札着いたら電話かけて。ゆっくりでいいからな。』

『了解』

そんなやりとりをして、時間にはまだ少しあるが、待たせているからには急がねばと早足になる。

ホームから階段を駆け降り、改札を出たので電話をかける。
2、3コールでスマホから『ついた?』という花巻くんの声が聞こえた。

「ごめんね、どの辺にいる?」

『改札でて左の方にいる。名字さんは?』

「待って、探す…あ、いたかも。」

『まじ?どこ…え、え?』

そんな戸惑った声が電話口と目の前の両方から聞こえたところで通話を切った。

「ごめんね、お待たせ」そう花巻くんに言えば「え?名字さん?」と聞かれる。
これ以上の質問は面倒なので「そうだよ」とだけこたえて「早く行こう」と急かした。

お店に着くまで花巻くんはずっと私のことを観察していて、視線が死ぬほど鬱陶しい。
だからお洒落なんてしたくなかったのに。

席についてスイーツビュッフェのコースを二人分と、カップル限定のプレートをお願いすれば店員さんに「お似合いですね」なんて言われて本当に勘弁してくれと天を仰いだ。

いい加減視線もしつこかったので花巻くんに「朝出かける前にお姉ちゃんに捕まってお洒落させられたの。そんなにジロジロみないでもらってもいい?」と言えば「あ、いや、ごめん…」とモゴモゴ言われる。

堪忍袋の緒も切れて「いい加減にして!そんなに変!?いつも通りにしてくれないとやりにくい!」と周囲を配慮した声で叫べば「可愛かったから見すぎた、ごめん」と真っ赤な顔をして俯かれてしまった。

なんて言った?と聞き返す前にプレートが来てしまい、しょうがないので「ほら、食べよう」と声をかけ「いただきます」と手を合わせた。

ビュッフェはまだ始まったばかり、ひとまず花巻くんの反応は置いておいて美味しいスイーツを楽しむことにしよう。



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