オニユリ




朝、駅から学校までの間でいつも颯爽と抜かしてくる自転車がいる。

乗っているのは一年の時同じクラスだった名字で、すれ違い様に俺のカバンを軽く叩いてくる。
俺がそれに気づくと手を振って「部活頑張ってね~!」と言ってくれる。

長い髪を靡かせて走るその後ろ姿はいつ見ても爽やかで、とても綺麗だった。

三年間ほぼ毎日見ていて朝練がなくなった今、もうあの朝の時間はないんだ思うと少しだけ残念な気持ちになった。

名字のちょっとふざけた雰囲気が周りを明るくして、名字の周りには人が耐えなかった。

俺もその一人で、あいつの話しやすい感じが好きでよく一緒にいた。
クラス行事でも組むことが多かったし、他の男子よりは仲が良かったと思う。

名字は試合にもよく来ていて、いつも大きな声で応援してくれているのが聞こえた。
勝った時は喜んで、負けた時は一緒になって悔しがってくれた。
下手な慰めとかは絶対にしなくて、それが心地よかった。

そんな名字に俺が惹かれるまでにそう時間はかからなかったけれど、ずっとバレーを言い訳にして自分の気持ちに蓋をしていた。

でももう高校生活も残り少なくて、名字とは進路も違うから会うこともなくなる。

バレー部も引退して、気持ちを伝えるなら今しかないのではないだうか。

いつも、どんな時も後悔のない道を選んできたはずだ。

すぐにLINEで名字の名前を探して『明日放課後空いてたら時間くれ』とだけ送れば即既読がついて『いいよ』と返ってきた。

次の日、放課後正門で待ち合わせたら名字は先についていて、自転車片手にこちらを見て「やほ〜」と間の抜けた声で手を振った。
その様子に緊張していた気持ちが解れるのを感じる。

「なんか話すのも久しぶりだね〜」

「おう、朝練もなくなったから会わねェしな」

「もう岩泉がバレーやってるとこ見られないのは残念だよ」

「そうか?」

「そりゃね!三年間応援してきた身としては寂しいもんよ」

「応援いつもありがとな」

「こちらこそいつもいい試合をありがとう…って、なんで今更畏まって言うかな!照れるじゃん〜」

えへへ、なんて笑いながら「で、今日はどうしたの?」と聞いてきた。

「俺、お前のこと好きなんだわ。付き合ってほしい」

「ちょ、待って!なんだって?」

「二度も言わせんな。名字のことが好きだから付き合ってほしいって言ってんだよ」

「急だね!?」

「急じゃねェよ。一年の頃からずっと好きだったんだ」

「本当に?」

「こんなことで嘘つくわけねェだろボケ」

「それは…その…嬉しいですけど…」

「けど?」

「本当に私でいいの?」

「お前がいい」

「うっ、岩泉のその真っ直ぐなとこ嫌いじゃない」

「ぐだぐだ言ってねェで早く返事よこせ」

「私も好きだよ!だからバレー応援行ってました!」

真っ赤になってやけくそに言う名字に、らしいなと思って笑ったら「余裕ぶらないでよ!」と怒られた。

「なんだ、両想いだったのかよ」

「そのようで」

自転車を引いて歩く名字に「明日から朝一緒行こうぜ」と誘えば「楽しみにしてるね」と嬉しそうに笑ってくれた。



花言葉:陽気


お題:通学路、自転車漕ぐあの背中



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