カリン

東京2020のオリンピックで日本がメダルを取った。

侑も試合に出ていたから本当は生で観たかったけれど、残念ながら抽選から漏れてテレビ画面越しでの応援になった。

私と侑のお付き合いは高校時代からで、その当時から人気のあった侑とは所謂“秘密の恋”だった。

侑と付き合ったきっかけもよくわからなくて、試合を観に行ったその日に体育館裏で捕まって「名字さん俺と付き合うてや」といきなり言われ、断ろうとしたら「まあまあ、まずはお試しって言うやん?」と私が頷くまで逃してくれなかった。

その割に「でもこの関係はみんなには内緒やで?」とわけのわからない約束をさせられて、でもいつの間にか侑の明るくて面白いとこやたまに見せる優しさに惚れてしまって抜け出せなくなった。

私も私でそんなの気にしなきゃいいのに、当時の私は侑と別れたくないがために何も言えず、派手な女子とかと一緒に笑っているのを横目にいつも悔しい思いをしていた。

彼女は私なのになんで。

それは今でも変わらなくて、本当に愛されてるのかなんか全然わからない。

この間なんか週刊誌に女子アナと一緒にいるのを撮られてたし、後日宝飾店に入ったのをすっぱ抜かれて見出しに『結婚間近か!?』なんて書かれてた。

それでも試合が終われば真っ先に私のいるこのマンションへと帰ってきてくれているのだから本命は私だと思いたい。

もう何年越しになるかもわからないこのモヤモヤも、侑のプレーを見れば全部なくなるのだ。

ずっとバレーを愛していて心底楽しそうにプレーするその姿を見るだけで、また愛おしいと思えるよう私の身体に染み込まされているみたいだ。

今日の試合なんて特に凄くて、メダルが決まった時は本当に涙が出た。

かつての戦友たちと同じコートに立って、ボールをトスするところなんてその当時の試合を思い出して胸がいっぱいになった。

『さて、天照JAPANの皆さんへのインタビューです』

テレビではメダルを首から下げて嬉しそうにはしゃいでいる侑たちが映されていて、こう見ると本当に遠いところにいる人なんだなと思わされた。

『宮選手、今日のサーブすごかったですね!今この感動を誰に伝えたいですか?』

『いつも応援してくれとる人に、ですかね!』

侑と画面越しに目があった気がした。

首から下げているメダルではなく、医療用で血行促進にいいと聞いて私があげたネックレスを手にし、愛おしいとばかりにキスを落としてニヤリと笑った。

ほんの数秒だったけれど、あれは私に向けてのメッセージだった。
顔に熱が集まるのを感じ、心臓がバクバクと大きな音を立てた。

私だけが好きなわけじゃない?
侑もちゃんと私のことを愛してくれている?

そう思うと居ても立っても居られなくて、慌ててスマホを手に取り侑へと電話をかけようとしたら、LINEにメッセージが一件入っていた。

差出人は侑からで、試合が終わってインタビューが始まる少しの間に送ったらしい。

『寝室のクローゼット』

なんのことだかさっぱりわからなかったけれど、指定の場所を開ければいつの間に置いたのか有名ブランドの小さい紙袋があった。

袋を開けると小さな箱とメッセージカードが入っていて、見てみたら『これからもずっと一緒におって』と一言書いてあって、箱を開ければ以前私が可愛いとこぼした指輪が入っていた。

侑はいつから考えてくれていたんだろう。
全然気づかなかった。

LINEに『喜んで』という言葉と共に指輪を嵌めた手を送れば『幸せにするからな』とすぐに返してくれた。



花言葉:唯一の恋



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