09

いつも教室へ無遠慮に入ってくる先輩が今日は入ってこなかった。

教室の前をウロウロしていたので声をかけるか迷っていたら、クラスの子が私のことを呼んでくれた。

昨日作ったお菓子の袋を持って先輩のところへ行くと、先輩の手には丁寧にラッピングされた袋があった。

とりあえずお菓子を渡したらいつものお礼だとその袋を私にくれて、逃げるように階段の方へと駆けて行った。

「なに、名前治先輩からなんかもらったん?」

「お菓子のお礼やって言うとった」

「へえ!何入ってるか開けてみたらどう?」

友人の言葉に頷いて袋に手をかけラッピングを綺麗に解いていくと、中から可愛らしいエプロンがでてきた。

「流石治先輩センスええな!」

シンプルなデザインだけど、でも裾が少し広がっていてフリルのついたそれは私の好みにドンピシャだった。

「あ、メッセージカードまでついとる」

「ほんまや。なんて書いてあるん?」

「えっと…『いつも美味いもんをありがとう』」

毎日来てくれるから不味いとは思っていないのはわかっていたが、言葉にされたのは初めてな気がする。

自然と涙が溢れてきて、友人はギョッとした顔をしたけれどすぐに「よかったなあ」と私のことを抱きしめてくれた。

人から美味しいと言われるのがこんなにも心に温かいものをくれるなんて思わなかった。

「私、パティシエールになりたい」

口にしたら今まで迷っていた気持ちが全部なくなって、道が開けた気がした。



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