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夜、もらったエプロンを取り出して着てみたらお母さんに「あら?それどしたん?」と声をかけられた。
「いつもお菓子あげてる先輩にお礼だってもらったん」
「写真撮ってあげようか?」
「えっ」
「折角もらったんやから着たとこ送ってあげればええやん」
「ほら、早よしなさい」と急かす母に慌てて壁の方へ移動したら「うん、似合っとる。選んでくれた人はセンスええなあ」と目を細めて笑っていた。
何枚か撮ってもらって、そのうちの一枚を治先輩に『着てみました。可愛いです、ありがとうございます』と言葉を添えて送ったら驚く早さで既読がついた。
『可愛いな。よう似合っとる』
エプロンのことを言っているのか、それとも私のことを言ってくれているのかはわからなかったけれど、その一言は私の顔を赤くさせるには十分だった。
なんて送るか迷っていたらスマホの画面が変わり治先輩からの着信が鳴った。
『あ、もしもし?』
「も、もしもし…」
『エプロン着てくれたんやな』
「こんな素敵なものいただいちゃってよかったんですか?」
『名字さんのために買うたんやからええねん』
「あの、すごく嬉しかったです。ありがとうございます」
『フッフ、喜んでもらえたならよかったわ』
電話越しに聞こえる治先輩の声は優しくて、心臓がドキドキする。
「私、先輩のおかげで進路決まりそうです。先輩さえよければこれからもお菓子食べていただいてもいいですか?」
『ええの?』
「先輩に食べてほしいんです」
これから先、何を作ったとしても一番初めは先輩に食べてほしい。
ずっとというのは叶わなくても、せめて先輩が卒業するまでは。
『せやったら、約束やな』
「約束ですか?」
『名字さんの作るお菓子、他の奴に先にあげたりしたらアカンで。一番に口にすんのは俺や』
「先輩も、他の人からお菓子をもらっても私のを先に食べてくれるって約束してくれはりますか?」
『おん。絶対守ったる』
口約束と言われればそれまでだけれど、私にとって先輩の言葉はすごく嬉しくて、今日のことはこれからもずっと忘れないんだろうなと思った。
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