05
「治?」
俺が返事もせんでぼーっとしとるから北さんが心配して声をかけてくれたけれど、今はその優しさすらも辛かった。
「そういえば名前ちゃん一人で来たん?」
「クラスの子たちときてたんやけど、逸れてもうてな…」
「サム、一緒探してやればええやん」
「え、いや折角バレー部で来てるのにええよ。連絡すれば会えるだろうし」
「一人で彷徨くと危ないやん。ただでさえ浴衣で動きづらいのに」
「なあ、サム?」なんて俺の気持ちを知っているツムが言ってくれるけれど、今二人になったところでまた傷つけるかもしれないと思うと素直に頷けなかった。
「ほら、治くんも困ってるし」
「とはいえ一人が危ないのは事実やから、見つかるまで俺らと一緒いたらええんちゃう」
「本当に大丈夫やから!私、もう行くね?」
ツムの提案を丁重にお断りし、人混みの方へと名前が消えていく。
「クソサム!お前名前ちゃん行ってもうたぞ!?なにしとんねん!!」
ツムに蹴られるけれど、身体が思うように動かない。
「治、お前男なら好きな女の子傷つけるようなことしたらアカンで。名字さん、泣きそうな顔してはったぞ」
何も言っていないはずのに北さんから“好きな女の子”と言われ、驚いて顔を上げたら「みてればわかるわ。今追いかけないと後悔するで。他のやつに取られてからじゃ遅いんやぞ」と背中を押された。
北さんの言葉に、頑なに動かなかった足が前へと進む。
「上手くいくとええな」
後ろから聞こえた北さんの声に「頑張ります」と大きな声でこたえ、名前のいなくなった方へと駆けた。
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