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約束をしてからも、治先輩にお菓子を渡す日々は続いた。

少し変わったのは渡した時で、今までそのまま袋を持って帰っていたのがその場で開けて一口食べてからクラスへと戻るようになった。

「美味い」

たった一言のそれがどれだけ私にとって嬉しいか治先輩は知らない。

「名前と治先輩、なんかあったん?お互い雰囲気少し変わったよな?」

そう友人に言われて、お互いの距離感が少しだけ近くなったのは気のせいではなかったのかと思った。

私の片想いじゃなければいいなと思ったことは何度もあるけれど、それが現実味を帯びてきたのはただただ嬉しかった。

「告白せんの?」

その言葉を私に言ってきたのは意外なことに侑先輩で、この人もたまにお菓子を強請りにくる。
曰く「サムだけズルいやん」とのことだ。

治先輩には怒られるから内緒にしといてくれと言われたけれど、取り分が減るのは事実なのでちゃんとお断りしておいた。

「週一くらいなら許してやらんこともない」

耐え難い顔をしながら了承した治先輩は、侑先輩に何か弱味でも握られているのだろうか。

「で、告白しないん?」

「しませんね」

「いやいや、『しませんね』やないやろ。両想いやろ!?」

「告白してどうするんですか?」

「えっ、付き合うんやないの?」

「治先輩、高校でバレー辞めるって聞きましたけど。後一年集中したいと思うんですよね」

「まあ、そらそうやろな」

「邪魔したくないんです」

いつだったか治先輩に、将来は食べ物関係の仕事に就きたいと聞いた。
だからバレーは高校でおしまいだと。

侑先輩とバレーをして過ごす時間を邪魔したくないのだ。

気持ちを伝えても時間の制約から今と過ごし方が変わらないなら、伝えるのは今じゃなくてもいいはずだ。

「名前ちゃんは欲がないんやなあ」

呆れた顔を私に向ける侑先輩に「侑先輩だって邪魔されたくないでしょ?」と尋ねれば「名前ちゃんはそういうとこ邪魔するコと違うと思うけどなあ」とボヤかれた。

「その感想は嬉しいですね」

「サムが他の子に取られたらとか思わへんの?」

「心変わりを責める立場にいないので」

「難しくて俺にはわからへん…」

「治先輩に変なこと言わないでくださいね」

「名前ちゃん俺とサムとだとなんでそんな態度違うんや…」

「侑先輩には真っ直ぐ言わないと伝わらないと思いまして」

「バカにしとんのか!?」

「素直だって褒めてるつもりです」

「せやろ?俺めっちゃ素直やねん!」

実際、話しやすさからいくと侑先輩の方が話しやすい。
治先輩よりも表情豊かで何を考えているかがわかる分ポンポン会話が進む。
しかしその分一つ一つの会話が軽くてどこまで聞いているのかがわからない。

「兎に角、告白しませんからね」

最後に念押しをしたけれど、果たしてどれくらい伝わったかはわからない。



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