06
人混みの中紛れた名前は直ぐには見つからなくて焦燥感に駆られた。
クラスの子と合流できてればいいが、もしそうじゃなかったらタチの悪いやつに絡まれないとも言い切れない。
逸る気持ちを抑え、前へ前へと足を進める。
しばらく境内を歩いていたら、少し外れたところで名前が知らん男に手を引かれるのを見つけた。
「何やねんお前!!」
掴まれた手を払い除けて背中に隠せば、震える手が俺の服を掴むのを感じた。
早く追いかけなかった自分への怒りと、名前に触った目の前の男への怒りが一気に押し寄せた。
「俺の連れになんか用でもあるんか?」
低い声でそう問えば「なんだよ、野郎連れかよ」と捨て台詞を吐いて逃げて行った。
いなくなったのを確認して名前の方を見れば、俺の服から手を離して泣きそうな顔で「ありがとう」と笑った。
「すまん、さっきは…えーと…クラスの子、一緒探してもええ?」
「ええの?治くんバレー部の人と来とったやん…」
「名前が危ないやつに絡まれるよりはええ」
「ありがとな、ほんま助かるわ」
しばらく一緒に歩けば、案外遠くないところでクラスの子たちは見つかった。
俺たちが近づいてくるのを見つけると「名前!!急におらんくなったから心配したんやで!」と駆け寄ってきて「まあでも治くんとおったなら平気か」とニヤリと笑った。
「見つかってよかったな、俺も戻るわ」
背を向けて歩こうとした瞬間、袖を名前に引っ張られた。
「あー…どしたん?」
「治くん来てくれてありがとう」
頬を染めてはにかんだ顔で俺を見る名前に、今度は俺が手を引いた。
「すまん、やっぱ名前借りてくわ」
「ええよ、お二人で楽しんできてや」
にやにやと笑いながら手を振る名前の友人に「ありがとな」と声をかけ、そのまま名前の手を引いて人気の少ないところへと歩いた。
「ちょ、治くん、どしたん急に」
人がまばらになったあたりで足を止め、名前の方へと向き直る。
「俺、名前に謝らなアカンねん」
「何を?」
「ここ最近、余計なことばっか言うて傷つけてたやろ?」
聞いた瞬間、名前の眉間に皺が寄るのを見た。
「嫌な気持ちにさせてすまん。あれ、名前に好きになってもらおうと背伸びして空回った」
「名前が俺のことどう思ってるかは知らんけど、俺は名前のこと好きやねん」
「スパダリにはなれんけど、それでも名前のこと好きな気持ちは誰にも負けへんと思う」
「やから付き合うてくれ」
一気に言い切って、目の前の名前の顔を見れば今までに見たことがないくらい優しく微笑んでいた。
「なんや、最近態度が変だったのは私のためだったん?心配したんやけど、杞憂だったんやね」
そう言って名前は俺の肩へ手を回し、そのままの勢いで唇へとキスをした。
「スパダリなんてええねん。治くんはそのままで素敵やで?最高の彼氏や」
ぎゅっと抱きつく名前を優しく抱きしめれば「大好きやで」とニッコリ笑ってくれた。
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