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「私、治先輩のことが好きなんです!」

名字さんにお菓子をもらいに行くようになってから止んでいた告白が、最近またよくされるようになった。

別にお断りすればええだけなんやけど、急に増えたのはなんでなんやろか。

「申し訳ないけど、俺好きな子おるし今はバレーを大事にしたいから無理やねん」

「治先輩の好きな人って一年の名字さんですよね?でも、最近名字さんええ感じの人おるって聞いたんですけど」

びっくりしすぎて心臓が止まるかと思った。

「え、どういうことなん」

「名字さん、毎日男の子と帰っとるしその人と付き合ってるんやないんですか?」

寝耳に水とはまさにこのことだと思う。

「名字さんが?」

「名字さんが」

「付き合うてる人がいる?」

「って聞きましたけど…」

「え、誰なんそれ」

「名前は知りませんけど、同じクラスの男の子やって友だちが言うてました」

両想いだと思っとったのは俺だけやった?

いやいやいやいやいや、そんなことあらへんよな?
ツムですらそう思ってたんやから。

「あの、だから治先輩私と付き合ってくれませんか」

「いや、それはすまん。名字さんのことは置いといても今は誰かと付き合ったりするつもりはないんや」

「そうですか…」

ありがとうございました、と頭を下げて走り去った女の子は少しだけ泣きそうだったけれど、俺の方が泣きそうや。

『取られてからじゃ遅いと俺は思うけどな』

あの時のツムの言葉が俺に刺さった。

確かに名字さんが誰かを好きになってもそれを責められる立場に俺はいない。
それでも、もし誰かを好きになったのなら言ってくれると思っていたのに。

毎日教室に行っているのに誰も何も言ってくれなかった。
フラれとるのに可哀想やとみんな思っとったんか?

名字さんは何を思って俺と顔を合わせてたんやろか。

胸に湧き上がるこの感情は、絶望と嫉妬だった。



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