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その日、お昼休みに名字さんのところへ行く気が起きなくて自分の教室で机に突っ伏していた。

さっきの女の子の言葉が頭の中を何回もリフレインする。

午後の授業も全然集中なんかできなくて、放課後までなんの気力も湧かなかった。

昼休みに来なかったのを心配してか名字さんが放課後俺のところにお菓子を持ってきてくれたけれど、何を思って彼女はここにいるんやろか。

「治先輩?お昼休みお忙しかったんですか?」

そう話しかけられたけど、口を開けば“ええ感じの男の子”について問い詰めそうで何も口にできなかった。

「これ、今日のお菓子なんですけど…食欲わかなかったら侑先輩にあげてくださって構わないので」

何も話さない俺に困った顔をした名字さんは、お菓子を俺に無理矢理押し付けるようにして渡し「では、失礼します」と頭を下げた。

走っていく様を目で追ったら、遠くの方で名字さんに手を振る男が見えた。
二人は仲睦まじそうに話して、そのまま正門の方へと帰って行った。

あの子が言っとったことほんまやったんや。

頭を鈍器で殴られたような感覚がした。

もらったお菓子をそのままツムに渡したら「え、これ名前ちゃんの手作りやろ?俺が貰ってええんか?」と驚かれたけど、とてもじゃないけれど食べる気なんて起きなかった。

もう名字さんにお菓子をもらうのもやめにしようと思って、LINEで『もうつくらんでええよ』とだけ送っておいた。

やっぱ恋愛になんて現を抜かしてたらダメやったんや。



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