花巻貴大

「あれ、貴大なんか嬉しそうじゃん」

「わかる?松川…高校の頃のチームメイトが結婚したんだよな」

「おめでたいね!あ、それっていつもオンラインで飲み会してる人たち?」

「そ。結婚相手はマネージャーでさ、みんなのマドンナだったんだよな〜」

嬉しそうに話す貴大は当時のことを思い出しているみたいで、思い出話を私に聞かせてくれる。

私と貴大が知り合ったのは貴大が東京に来てからだから当時のことは全くと言っていいほど知らない。
でも、時折飲み会をしている彼らからは毎回楽しそうな笑い声が発せられていて、素敵な友人であることが伺えた。

「いいなあ」

無意識に口から出た言葉に自分でもびっくりした。

「え、なに名前どした?」

貴大も驚いたみたいで、喋るのを止めて私の方へと顔を向けた。

「や、貴大の高校時代を私も見たかったなあって…」

口にすればあまりにも子どもみたいな発言に、自分でも恥ずかしくなった。
過去に戻れるわけじゃないんだからそんなこと口にしたところで仕方ないのに。

「高校時代には戻れねーけどさ、松川の結婚式に名前も来ないかって誘われてんだよな」

「なんで私まで?」

「俺の可愛い彼女が見たくて仕方ないんだって」

「いやいやいや!たかが彼女の分際で大事なチームメイトの結婚式に出られないよ!」

そりゃ私だって“残念なイケメン”の及川くんや“漢気あふれる”岩泉くん、“無駄な色気を振り撒いてる”松川くんを見てみたい。

貴大から聞く彼らは非常に愉快で、叶うのならば一度会って話してみたいのだ。
高校時代の貴大の話もいっぱい知っているだろうからそれも是非聞かせてほしい。

でも、飲み会にお邪魔するとかなら兎も角結婚式だ。
赤の他人で初対面の私が簡単に行くのはやはり憚られる。

そんな私の心情を察してか、貴大は眉を下げて「無理にとは言わないけどさ」と笑って引き下がってくれた。


ところが1週間くらい経ったある日、仕事帰りにポストを開けたらその松川くんから結婚式の招待状が届いていた。
私と貴大の連名で。

慌てて招待状を見せに部屋へと帰ったら、そこに貴大の姿はなかった。

いつもなら私より早く帰っているはずなのに。

困って部屋の真ん中で佇んでいたら、後ろから優しく抱きしめられた。

「貴大帰ってたの?」

「名前、そのまま聞いて」

「なに?」

「俺、お前のこと好きなんだわ」

「えー?急にどうしたの?」

いつになく真剣な声色の貴大に好きだなんて言われ、心臓が高鳴るのを感じる。

「これからもずっと一緒に過ごしたいから、俺と結婚してくれませんか」

後ろから抱きしめられてるから貴大の顔は見えない。
けれど、背中に触れた貴大の身体からは心臓の鼓動が強く感じられる。

熱を持った腕、頬に触れる貴大の髪、全てが私の感情を昂らせた。
上手く息ができなくて、言葉が口から出ない。

「大切にするから」

低く、甘い声に脳が痺れるのを感じた。

「私も好き…」

辛うじてそう言葉にすれば、私の手をとり左の薬指へとキラキラと輝く宝石のついた銀色に光る指輪を嵌めてくれた。

「いつの間に用意したの?」

「去年くらいからずっとタイミング見計らってたんだけどな」

「そんな前から?」

「結婚するなら名前以外考えらんねえもん」

ずっと考えていてくれたのか。
そんなそぶり微塵も感じさせなかったのに。

「ねえ貴大、松川さんの招待状届いてたの。私も行っていいかな?」

「婚約者なんだからいいんじゃね」

照れた声で言う貴大に、思わず頬が緩む。

「貴大、ありがとう!」

振り返って貴大に抱きつけば、少しよろけながらも抱きとめてくれた彼に胸の中がいっぱいになった。



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