08
「好きってなんやろか」
部活の休憩中、体育館裏で休みながら先程サムと角名に言われた言葉を口にしてみたら「誰にも渡したくないってことやないの?」と思わぬところから声をかけられた。
「北さん!!」
だらしなく座っていた体勢を正し、声のした方を向いたらスポーツドリンク片手にタオルで汗を拭いている北さんがいた。
「なんや、侑は恋に悩んでるんか?」
まさか北さんにそんなことを聞かれるとは思わなくて何も言えないでいると、北さんは少し考える素振りをした後口を開いた。
「さしずめ相手は名字さんやな」
「エスパーですか!?」
相手まで当てられて顔を青くしたら「毎時間追いかけっこしとるって三年の教室まで聞こえてきてるで」としれっと言われた。
「好きなん?」
「逃げられるから追いかけとるだけです」
「やったら俺がもらってもええんかな」
北さんの表情は微動だにしなくて、冗談で言っているのか本気で言っているのかの判断がイマイチつかない。
「委員会も一緒やし、侑と違って逃げられへんもんな」
「冗談ですよね…?」
「どうやと思う?」
名字さんはサムから聞いた話だと普段は真面目でふざけることもあまりしないというし、ちゃんとしてる北さんとは付き合ったらお似合いだろう。
二人が仲睦まじく笑う姿があまりに簡単に思い描かれて、顔から血の気が引くのがわかった。
「なんや、そんな顔するなら自覚しとるんやないか」
「安心せえ、嘘や」そう言った北さんの顔をみたら揶揄われていることに気づいた。
「北さん!揶揄わんといてください!」
「名字さんはええ後輩やからな。理由もなく追いかけてんのやったらしばいたろかと思っただけや」
「え」
「なんてな」
休憩も終わりの時間になり「さ、戻るで」と言った北さんがどこまで本気だったのかはわからなかった。
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