09
「名前は侑くんのこと好きなんよね?」
そんなことを聞いてきたのは友人で、私の思考が一瞬停止した。
「え、好き?」
「侑くんみると前まで顔赤くして照れとったやん」
「そりゃ憧れやったからね!」
「過去形なん?」
「今はどうなんやろなあ…」
今は侑くんを見るなり逃げる日々が続いていて、憧れとかそういうのを考える暇もない。
試合を見れば胸が高鳴るけれど、これが憧れかと言われると首を傾げるばかりだ。
憧れというには侑くんの存在が身近になりすぎた気がする。
一回逃げたからといってあの手この手で私のことを捕まえようとするのはまったくもって理解できないけれど、それでもずっと懲りずに追いかけてくるところは正直惹かれるところがある。
でも、だからといって好きというには決定打がない気がする。
侑くんがどう思っているかもわからないのに、迂闊に好きになっても悲しい思いをするのは自分だ。
そんなある日、委員会の集まりで北先輩と話すことがあった。
「名字さん」
話しかけてきたのは北先輩の方で、普段集まりの最中に話すことはあれど解散後は速やかに部活へと向かうのでこうやって二人で話すのは初めてかもしれない。
「どうしたんですか?」
「ん?名字さんと侑の追いかけっこがおもろいから話してみよかなと思ったんや」
「なんか闘争心に火をつけてもうたみたいなんですよねえ…」
「それだけやと思う?」
歩きながら話す北先輩は普段と変わらない風だけれど、その声色はどこか揶揄いを含んでいた。
「それだけやないんですか?」
「俺からは言えんけど、あそこにおる侑の顔見たらわかるんちゃうかな」
北先輩はそう言って私に近づき、肩に手をかけてくるりと回した。
回された先に見えたのは、侑くんの切なそうな顔。
ああ、これは好きと言われているようなものじゃないか。
顔に熱が集まるのがわかる。
「お節介やったらすまんな」
「いえ、そんなことないです」
「自分の気持ちには正直になった方がええよ」
「そうします…」
とはいえこれだけ追いかけっこが続いていると捕まるのが癪なのも事実で、どこかで折り合いをつけたいけれどつけられないでいるのは負けず嫌いなこの性格がいけないのかもしれない。
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