ダルマギク
「佐久早くん、好きです…あの、付き合ってください…」
中学生の頃に従兄弟に連れて行かれたバレーボールの試合で、たまたま佐久早くんのプレーを見たことがあった。
他の中学生と比べてわかるそのしなやかな動きに一瞬で魅せられた。
高校に入学した時、同じ学年に佐久早くんがいると知ってまたあのプレーが見られるのかと心が躍った。
本人が潔癖なのを知ったのもその時。
別に好かれたいわけじゃなかったけれど、嫌われるのは嫌だったので私自身もかなり気をつけるようにした。
日々気をつけていればそれはいつの間にか習慣になって、気づけば私も友人や家族から潔癖なの?と聞かれるまでになった。
別に私が潔癖なわけでないので否定はしたけれど、皆んなして口を揃えて「潔癖じゃないやつはそこまでしない」と言った。
そして2年生の4月、クラス替えで佐久早くんと同じクラスになることができた。
あまりにも嬉しくて何度も張り出されたクラスの表を見たし、夢じゃないかと頬もつねった。
しかも教室に入れば、なんと佐久早くんと席が隣。
あまり人との関わりが得意じゃない私は話しかけるとかはできなかったけれど、少しでも佐久早くんに嫌がられないよう除菌を徹底していたら佐久早くんに覚えてもらえたみたいで、会えば挨拶をするようになった。
「名字さんはなんでそんな綺麗にするの」
「えっと…自分が感染源になって周りに迷惑かけたくないからかな?」
本当は貴方に嫌われたくないからですと思ったけれど、そんなこと言えるわけもなく無難なこたえを返したらどうもそれがお気に召したらしく挨拶だけでなく話してくれるようになった。
そして冒頭、2年生も終わりに近づいてこのクラスももうすぐ終わり。
そう考えた時に自分の気持ちくらいは伝えたいと思ったのだ。
オッケーなんてもらえるつもりはてんでなくて、佐久早くんに気持ちを知ってほしかっただけだった。
でも蓋を開ければ佐久早くんは「別にいいけど」と言ってくれ、なんと私と佐久早くんは彼氏と彼女になった。
これが去年までの話。
そして3年生になってクラスも分かれると、佐久早くんとの接点は全くといっていいほどなくなった。
これじゃまずいと思って昼休みに一緒にご飯を食べに誘ったり、部活が終わるのを待ってみたりとあの手この手で関わりを持つようにした。
佐久早くんも特に何も言わずに一緒にいてくれたので、別に嫌ではなかったのだと思いたい。
でも、中学時代の友人と久々に会って佐久早くんのことを話したら「向こうは名前のこと好きなの?」と聞かれた。
名前も呼ばれない、デートもしない、手を繋ぐことすらない。
今まで好かれていると思ってたから頑張れた。
でももしそれが自分の思い違いだったら?
一回そう思い始めると今まで佐久早くんに会いに行っていたことすらも迷惑だったんじゃないかと思うようになって、何もできなくなった。
気づけば佐久早くんと最後に二人だけで会ったのはもう1ヶ月も前のことになった。
「最近名字さん、聖臣のこと避けてるの?」
元也くんに聞かれてあらましを話せば「聖臣は嫌なことは嫌って言うけどな」と困った顔で笑われた。
「嫌われてないとは思うけど好かれてる自信もないの」
「名字さんは、自分で思うよりも好かれてると思うよ」
「でも…」
「だってさ、こうやって俺と話してんのすごい顔で向こうから見てるの見えない?」
そう言って元也くんが指を差したほうを見れば、今まで見たことのない嫌悪に溢れた佐久早くんがいた。
「名字さんも聖臣に遠慮してないで、やりたいことお願いしてみればいいよ。二人してお互いのこと考えすぎだと思うな」
元也くんが言い終わるや否や、佐久早くんが元也くんの腕を引っ張った。
「ほらね?邪魔者は退散しますよ〜」
ニコニコと笑いながら手を振って去った元也くんは、この不機嫌な佐久早くんを残して私にどうしろというのだろうか。
「俺よりアイツの方が好きなわけ」
「アイツって元也くん…?」
「俺のことは名前で呼んだことない」
「呼んでもいいの?」
「彼氏は俺だろ」
もしかしなくとも、佐久早くんのこの不機嫌は嫉妬?
元也くんが言っていた通り、私は佐久早くんに思っているよりも好かれているのだろうか。
「私が好きなのは佐久早くんだけだよ」
「名前」
「え?」
「俺の名前」
「き、聖臣くん…?」
「今度からもそう呼んで」
ぷいとそっぽを向いた聖臣くんを見て、わかりにくいだけで案外可愛いところがあるのかもしれないと思った。
「ねえ、聖臣くん。私のこと好き?」
「…好きじゃなきゃ付き合ってない」
「手繋いでもいい?」
「好きにすれば」
初めて繋いだ手に喜びを隠せないでいると「バカ面」と言われたけれど、そう言う聖臣くんもどこか嬉しそうな顔をしていた。
花言葉:打たれ強い
リクエストありがとうございました!
back