サギソウ

すごく幸せな夢を見た。


仕事から帰って地元の駅に着くと、改札で名前と小さい子どもが俺に手を振ってくれた。

名前は優しい声で「おかえりなさい」と言い、子どもは俺の姿を見るなり駆け寄ってきた。

顔はぼんやりとしていてわからないけれど、なんとなくこの子が俺の子どもだと思えた。

脇を抱えて高く上へあげれば楽しそうな声をあげてはしゃぎ、俺へと嬉しそうに抱きついてくれる。

「おとーさん、おかえりなさい!」

辿々しい口調で話す子どもに、温かい気持ちが広がる。

夢の中だとわかっているのに、本当に自分の子どもがいるかのような感情を覚えた。

「ただいま」

そう返せば子どもも名前も嬉しそうに笑い返してくれて、幸せとはこういうことをいうのかと思った。

俺の不規則な休みとは違って土日休みの名前。
高校を卒業して会う頻度もめっきり少なくなった。
お互いいい年になったのに、きっかけがなくて同棲もしていない。

夢の中ではこんなに幸せなのになんで。

そう思ったところでパチリと目が覚めた。

あたりは太陽が上り始めた頃で、時計を見るとまだ午前5時を少し回ったところだった。

なんとなくスマホに手を伸ばし名前に「おはよう」と送ったら、向こうも起きていたのかすぐ既読がついた。

先程の夢をまだ引きずっているのか、急に名前に会いたくなって上着を手に玄関へと向かう。

扉に手をかけた瞬間、向こうから引っ張られる感覚があった。

ドアを間に挟んで数秒かたまったと思う。

「名前…なんで…」

「最近会えてないから寂しくて。大地くん今日おやすみでしょ?寝ている間に朝ごはんでも作ろうかなって思ったんだけど…」

会いたいと思った顔が目の前にあって、たまらず身体を抱きしめた。

まだ朝晩は冷えるこの時期にわざわざ俺の家まできてくれた名前の身体は少し冷えていて、そんなところもたまらなく愛おしく感じた。

「大地くん、会いたかった」

ぎゅ、と俺の身体にまわされた手に力が入る。

「俺も会いたかった」

夢の中で感じた幸せを、現実にしよう。

「名前、一緒に暮らそう」

告げた言葉に小さく頷いた名前の目には涙が溜まっていて、今までこの小さな身体でどれだけの我慢をしていたのだろうかと思う。

「大地くんのバカ。その言葉、ずっと待ってたよ」

触れた唇は互いの熱を伝え合い、心が一つに溶けるのを感じた。



花言葉:夢でもあなたを想う



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