04

『宮さんもお仕事頑張ってください』
その一言でいつまでも頑張れる!そう思っとったのはいつのことやろうか。

あれから名字さんはお店に来なくなって、LINEをするかどうか迷うもそんなホイホイLINEをする内容も思いつかない。

常連さんにそれとなく「名字さん元気?」と聞けば「疲れて死んどるなあ」と返ってくるも「お店にまた来てくれたりせえへんやろか?」というと「それは今は無理やろな」と言われ、共通の知り合いが彼女だけの俺は八方塞がりの状態やった。

そんなこんなで一ヶ月くらい経った頃やろか。

閉店間際の静かな店内に、扉の開く音が響いた。

もう閉めようと思ったのについてへんなあと思いながら顔をあげる。

「いらっしゃ〜…名字さんやん!!」

ここ一ヶ月間ずっと見たかった顔がそこにはあって、俺は思わずカウンターから身をのりだした。
名字さんはそんな俺に少しびっくりした様子を見せたが「お久しぶりです、仕事が忙しくてなかなか来れなくて…」と声をかけてくれた。

忙しかったんか…!!よかった…!!

会えてものすごく嬉しかったが、態度に出ないよう気をつけながら「名字さんの先輩は来てはったからなんか気に障ることでもしたかと思っとったんよ。ホッとしたわ〜」といい「注文なににする?今日のおすすめはすきやきやで」と教える。
すると彼女は「じゃあすきやきと梅をお願いします」と注文してくれ、カウンターへと座った。

もうこの後は客は来んやろし、久々にゆっくり話せると喜んだ矢先「サム〜!!!ネギトロ!!!」とクソデカい声で片割れが入店してきた。

なんでこのタイミングやねん!!と腹立つ気持ちをそのままに「ツム!お客さんおるのが見えんのかアホ!」とキレる。

そんな俺の態度を華麗にスルーし、名字さんに「お?こんな時間に食べてはるなんて今までお仕事だったん?お疲れ様やな〜!お姉さんビール飲める?」と質問し、それに名字さんが頷くと彼女と自分のビールを頼み、隣に腰掛けよった。

今すぐ殴りたい衝動にかられるが、そんなことしたら名字さんがびっくりしてまうので抑える。ほんま殴りたいけど。

ツムは名字さんの隣に座ると「あ、はじめましてやんな?宮侑です〜。侑くんて呼んでな!」とのたまった。

俺ですらまだ名前で呼んでもらってへんのに!なんなんやクソツム!!

注文されたおにぎりとビールを置き、暖簾をしまいに外へでる。
このまま店を開けておくより、閉めてしまって俺も店主やのうてただの宮治くんになればええんやと思ったからや。

暖簾をしまったことに気づいた名字さんが慌てて席から立ち上がるが「ツムが来たから今日はもう閉店や。名字さんもゆっくりしてってくれてええよ」と伝え、座り直してもらった。

俺も自分のビールをいれ、ツムとは逆側の名字さんの隣へと座る。

したら今度はツムのアホが名字さんが俺の彼女じゃないかと聞きよった。
ほんま勘弁してくれ。
「これからやこれから!」と叫んで今こいつ名前で呼びおったな?と気づきそれも訂正させる。
必死な俺をみてゲラゲラ笑う片割れに、ふざけんなツム!と怒ればさらに笑われた。

折角名字さんと二人っきりやと思ったのにとんでもない伏兵がいたもんや。
まあ、名字さんが楽しそうやからええけど。

それから色んな話題で盛り上がって、そろそろ終電も近い時間になった。

名字さんはツムが奢ると言ったものの、申し訳ないのでと固辞し、おにぎりの代金を置いて「ごちそうさまでした」と店を出た。

「サム、ええの?」と言われ「ええわけあるかアホ!」と急いでエプロンと帽子を外し追いかけた。

すぐ見つけたので「名字さん!」と呼び止め「暗いから送ってくわ」とさりげなく隣を歩く。

「今日はツムがすまんかったなあ」

「いえいえ、宮さんも侑くんも仲良しで楽しかったです」

「それ!!俺のことも名前で呼んでくれへん?」

よし、言った!
ツムだけ名前呼びにさせてたまるかと思い、少々ずるいが頬を膨らまして拗ねた態度をとる。

すると、名字さんは顔を赤くして蚊の鳴くような声で「お、治くん…」と呼んでくれた。

は?めっっっちゃかわええな!?
なんなんこのかわええ生き物。やば。

思わず頭を撫でたら、さらに赤くなった。
これは期待してもええんやろか。

駅にはあっという間に着いてもうて、お礼を告げられる。

「気にせんといて」と言った後、待てよ?これはデートの約束できるんちゃうか?と思い直し、彼女の祝日の予定を聞く。

「その日、お店お休みなんよ。もしよかったらなんやけど…どっか行かへん?」と誘うが、戸惑われたので「ダメなら無理にとは言わんけど…」と押しに弱そうな彼女に続けて言う。

それを聞き、彼女がそんなことはないと言ってくれたので言質はとった!とすぐ「家まで気をつけて帰るんやで」といい改札へと向かわす。

彼女が電車に乗ったであろうタイミングで「デート楽しみやな!」と送ると「そうですね、楽しみにしています」と返ってきた。

よし!!デートや!!!!



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