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話し終えた店主さんの顔を見たら、何故か胸が騒ついた。

話していた内容に心当たりはないのに、どうも自分のことのような気がしてならない。

「ツムは自分が好きでも俺に負い目があるから動けずにおるんやで」

私の目をしっかり見て話す店主さんは私にどうしてほしいんだろうか。

「ま、そんなこと名前ちゃんに言っても仕方ないな。聞いてくれてありがとな」

ピリピリした空気から一変して、笑顔を作る店主さんは「店仕舞いや」と言い片付けだした。

「あの、今日って本当にお店開いていたんですか?」

「さあ?どうやと思う?なんでツムはここに来るよう言ったんかな?」

問いかけに問いかけで返され困惑したが、何も言い返せなかった。
きっと何を聞いても明確な答えはくれない。

「出直してきます」

「自分の知らないことは知ってる人に聞くのがええんちゃうかな」

まるで謎かけだ。
私の知らないことを知っている人?

「誰ですかそれ」

「さあ?名前ちゃんのこと大切にしてくれとる人やない?」

「…お会計お願いします」

「今日はええよ、長々と付き合うてもらったしな」

追い出されるように店を出て、先程の店主さんとの会話を反芻する。

私のことを大切にしてくれている、私の知らないことを知っている人。

考えぬいた先にいたのは、いつも愛情たっぷりに育ててくれた両親だった。

そういえば母は尼崎に転勤になると言った時に「運命かしらねえ」と呟いていた気がする。

別に明日でもいいのだけれど、何故か今日聞かなければいけない気がして鞄からスマホを取り出し母へと電話をかける。

数コールの後に出た母に「私って尼崎にいたことがあるの?」と聞けば「思い出したの?」と驚いた声をあげられた。

「ううん、思い出してない。でも知りたいの。聞かせて、全部」

そう言えば母は長くなるのだけれどと前置きをして話してくれた。



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