13
角名に促され教室へと入ると、中は高校の文化祭とは思えないクオリティやった。
もっと簡素なものを想像していたから一人で入ったのに、これは予想外すぎる。
戻ろうかなと後ずさったら、係のやつらが俺の腕を捕まえて「ご案内しま〜す」と楽しそうに笑って奥へと押しやった。
押された先にはテレビがあって、よくある呪いのビデオが流れていた。
暗くて空調の効いた部屋、流れる不気味な音楽、そして何よりその空間に俺一人。
それでも前に進まないわけにはいかず恐る恐る足を進めるが、足元に転がる人形とかたまに背中に触れる誰かの手がたまらなく怖い。
名字さんを探しに入ったのに、既に出たくて仕方がない。
ある程度まで進むとお決まりの人形が机にポツンと置かれていて、触ると何かしら驚かされるのが目に見えている。
でもそれを触らないことには先に進めないし、他に触ってくれる人もいない。
男は度胸、自分に言い聞かせて人形へと手を伸ばしたところで四方八方からゾンビのメイクをした人が飛び出してきた。
情けない声を出したと思う。
ほんま怖かった。
なんやねんあれ、人数多すぎやろ。
自分でもびっくりするくらいの勢いで人形の前に置かれた札を掴み取り走って逃げたら、後ろからさっきの連中がゾロゾロと追いかけてくる。
必死になって走った先には机で作られたトンネル。
ただでさえデカい俺がこれを潜らなきゃいけないのかと絶望したが、後ろから追いかけてくるゾンビに兎にも角にも先に進まねばと急いで屈んで入った。
まあ、想像はついていた。
ついていたけれど、左右から伸びてきた手にすごい悲鳴をあげたと思う。
しかも驚いて頭をぶつけた。
痛い頭を押さえて必死になってトンネルを抜けたら、ドアが見えた。
もう当初の予定の名字さん探しなんて頭になくて、1秒でも早く外へ出ようとドアに手を伸ばした。
でも鍵がかかっているのかドアはびくともしなくて、もう蹴飛ばして開けてやろうかと思ったその時誰かが背中に抱きついてきた。
もしかして、名字さんか?
期待を胸に後ろを振り向いて見えたのは、黒くて長い髪の毛、黒い目の周り、大きくパックリと割れた額、そして口元からは真っ赤な血。
そして極め付けはその顔を嬉しそうに歪めて呟かれた「つかまえた」という言葉。
足から力が抜けて頭を抱え込んだ。
「俺が何したっていうんや!!!」
半泣きになりながら叫べばさっきまで暗かった電気がついて、目の前からスマホを構えた角名が出てきた。
「最初のお客さんとしては上々だね」
「角名…!!名字さん探すどころの騒ぎとちゃうぞ!!」
「まあいいじゃん。それより名字さんに捕まった感想は?」
角名の言葉にピタリと止まった。
捕まった感想、即ち俺に抱きついてるこの怖いメイクの子は名字さん。
目線をその子にうつすと「侑くん捕まえた〜」と楽しそうに言う名字さんの声が聞こえた。
「侑、なんか言うことは?」
「つ、捕まっちゃった…?」
「キショ。名字さんほんまツムでええんか」
角名の後ろからサムがでてきて眉間に皺を寄せながら名字さんに尋ねる。
「侑くん、捕まえたので私と付き合うてください」
「エッ」
「じゃないと角名くんが撮った情けない動画をクラス中にばら撒きます!」
「脅しやんけ!」
「まあ、冗談だよ。侑がどうしようとこれはみんなで楽しむから」
「角名!ふざけんな!!」
「返事くださいな?」
普段の名字さんの顔で言われたかった。
「喜んで…」
ため息と共にそんな嘆きを吐き出せば「今までの仕返しやからそこは諦めてや」と楽しそうに笑われた。
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