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教室から出ると、名字さんのクラスの人たちから口々におめでとうと笑いながらお祝いされた。
俺が知らんかっただけでクラス全員が噛んでいたらしい。
あんだけ怖がったんやからさぞ驚かした側は楽しかったに違いない。
「侑くん、午前中は私シフト入っとるから無理なんやけど、午後なら平気やから一緒周らへん?」
外の明るい場所に出ても怖い名字さんの顔に思わず目を背けたが、午後は非番ならこのメイクはしないはず。
二つ返事で了承すれば、嬉しそうに笑ってくれた。
…怖い顔のままで。
「また後でね」なんて言って手を振られてわかれたけれど、もしかしなくとも今のは初デートの約束やったんやないか?
呼び止めようと振り向いたものの、名字さんは教室へと戻ったみたいで廊下にはもうその姿は見えなかった。
午後、お化け屋敷のところまで名字さんを迎えに行くとクラスの人が俺に気づいて中へと声をかけてくれた。
「名字さん、侑くん来たでー!」
「あれ、もうそんな時間?今行く!」
お化け屋敷の中から出てきた名字さんは午前中のメイクはすっかり落としていて、いつも見かける名字さんの顔へと戻っていた。
「顔が戻っとる!!」
「そらあのメイクで侑くんと周るわけにはいかんやろ」
ふわりと笑った名字さんを見て、顔に熱が集まるのを感じる。
散々あの顔で笑われた後だったからっていうのもあるかも知れないけれど、この子が自分の彼女だと思うと心臓がドキドキして上手く息が吸えない。
そういえば名字さんのことをじっくりみるのは初めてかもしれない。
今まで話そうにも逃げられていたし、試合を観に来ている時は俺の方が見る余裕なんてない。
改めて見ると丸くて大きな目、長い睫毛、白い肌、ぷっくりとした唇。
どれをとっても可愛くて気づいたら口から言葉が漏れていた。
「かわええな…」
小さく呟いた言葉だったけれど、名字さんの耳にはちゃんと届いたらしい。
大きな目をさらに見開いてこちらを見て、口をパクパクと動かした。
その様子に思わず笑ってしまったが、そんなところも含めて愛しさが胸に溢れた。
結局捕まえることはできなかったので少し悔しいけれど、結果として付き合えたんだからこれはこれでいいのかもしれない。
まだ固まっている名字さんの手を取り繋ぐと「ふぎゃ」と変な声があがった。
「付き合うたんやからええやろ?」
「心の準備を…!」
「そんなん言うてたらキスもできへんやん」
「キ…!!!!」
顔が爆発するんじゃないかと思えるくらい真っ赤になった名字さんは本当に可愛くて、ついその唇にキスをしてしまった。
「あ、すまん。可愛くてつい」
名字さんは繋いでいた手を振り解いて、悲鳴をあげながら走って逃げていった。
なんや、また追いかけっこか。
そう思ったけれど、今度は負ける気がしなくて緩む頬を隠してすばしっこい彼女を追いかけた。
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