01
「信ちゃん、今日から2週間うちに泊まることになった名前ちゃんやで。仲良うしてあげてな」
ばぁちゃんに手を引かれてきた女の子は、まだ小さいのに陰を感じさせる子だった。
俺が挨拶をしても俯いた顔が上を向くことはなく、小さな声で「名字名前です」と自分の名前を口にした。
ばぁちゃんに名前のことを聞いても困った顔をするだけで、俺も子どもながらにあまり聞いてほしくないことだというのがわかった。
とはいえ同じ家で過ごす以上関わらないわけにもいかず、家のことや毎日のやることを説明している間にどうも懐かれたらしい。
「しんすけくん」
まだ舌っ足らずな口調で一生懸命俺を呼ぶ姿はまるで雛鳥のようで、色白な顔も相まって庇護欲を駆り立てた。
俺の姿が見えないと名前は家中を探してまわったし、俺が何処かへ行こうものならそれが近所だろうと必ずついてきた。
ばぁちゃんはその様子をみてどこか泣きそうな顔で喜んでいたから、名前が飽きるまでそのままにしておくことにした。
そうやって過ごしていたら2週間なんてあっという間に過ぎて、帰ることになった名前は俺から離れたくないとものすごい勢いで泣き喚いた。
「またあえる?」
瞳いっぱいに溜めた涙を下に溢しながら聞かれたその質問に、守れるかはわからないけれどと内心で付け加えて「きっと会える」と返せば名前は精一杯の笑顔で「またね」と手を振った。
ばぁちゃんに手を引かれて駅の方へと歩く名前の背中を見て、子どもの時の記憶は何歳まで詳細に残るんだろうかとぼんやりと思った。
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