02

名前が帰った後、ばぁちゃんはこっそり名前について教えてくれた。

親が忙しくて家に構ってくれる人がいないこと、小さいと思っていたけれど俺と同い年なこと、家は“とうきょう”にあること。

“とうきょう”がどこなのか聞いてみたら日本地図を持ってきて、俺の住んでいる“ひょうごけん”とはかなり遠いところにある場所を指でさした。

どうやら名前は夏休みの期間この近くに住む親戚の家に預けられたのだけれど、折り合いが悪くてばぁちゃんが家に泊めることになったらしい。
名前の両親は面倒を見てくれるなら誰でもいいらしく二つ返事で了承したと聞いた。

当時は大人たちのそんな会話もよくわからなかったけれど、今思うと名前は仕事を理由にネグレクトをされていたのかもしれない。

そう考えればあの折れそうなくらい細い手足も、出会った当初の陰のある表情も納得がいく。

俺に懐いたのもきっと構ってくれる人ができて嬉しかったからなんだ。

それ以降毎年夏が来るたびに名前が来ていないかとばぁちゃんに聞いてみたけれど、ばぁちゃんはいつも悲しそうに首を振るだけだった。

結局名前はあれ以降うちに来ることはなく、高校3年生になった今も会うことは叶っていない。

向こうだって俺と同じように成長しているのだから、道端ですれ違ってももうわからないかもしれない。

それでもあの夏の思い出は俺にとって忘れられないもので、道を歩いているとあの瞳いっぱいに涙を溜めた名前を思い出して探してしまうのだ。



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