09

家に帰ってから自己嫌悪に陥った。
なにが「好きやなぁ」だ。
たとえ思ったとしても口に出したら向こうだって困るだろうに。

しかも言い訳の一つや二つ言っておけば侑くんだって気にしなかったのに、何も言わずに走って逃げるなんて最悪すぎる。

しばらく会わないにしろ、どんなに頑張っても答案返却日と終業式は学校に行くことになる。
折角仲良くなれたのに自分のアホな行動でダメにするとか救いようがない。

避け続ければ今までの関係も自然となかったことになるだろう。
侑くんとLINE交換してなくってよかったと本当に思った。

言葉にしてしまってから気づく恋心なんて笑えない。

それから答案返却日まではずっとうじうじしていた。
母に鬱陶しいから外にでもいきなさいと言われたけれど、こんな気分で外出なんかしたくなくてずっと部屋で過ごしていた。
漫画や小説を読んだり、ゲームをしたり、やることがなくなって勉強してみたり。

それでも嫌な時間というのはやってくるもので、早くも答案返却日。

返された答案は私の気持ちとは反対にものすごくよくて、今までで一番取れたんじゃないか?というくらいの点数だった。

侑くんたちはどうだったかなあと思ったけど、今絶対会いたくないから聞く術もないし、そう思ったことすらため息をつきたくなる。
当たり前のように近くにいた存在に気付かされた。

深いため息をついていると友人から「なんや幸せ逃げるで」と声をかけられたが「もう逃げる幸せなんてないんや」と応えれば「辛気臭いなあ…。バレーでもみて元気出しぃや」と言われる。

それができたら苦労しないよ、と言おうとしたところで廊下から侑くんの声が聞こえてきた。
しまった、早くしないと会うことになる。
急いで荷物をまとめて「また終業式にな!」と友人に挨拶をし、一目散に玄関へと逃げた。

上手いこと会わずにすんでホッとする。
さて、このまま帰るかというところで角名くんからLINEが入った。

『テスト名字さんのおかげで点数よかったよ』

その言葉に嬉しくなり『それはよかったなあ!』とすぐ返せば、角名くんから電話がかかってきた。

不思議に思ってでたら『あ、名字さんもう帰っちゃった?』と聞かれる。

「まだ学校におるよ」

『テスト点数よかったからさ、お礼したいんだけど。今どこにいる?』

「今?玄関におるよ。角名くんが頑張ったんやからお礼なんてええのに〜」

『でもおかげで赤点もなかったし、助かったんだよね』

珍しく角名くんが引き下がらないので不思議に思っていると、階段から侑くんが駆け降りてきて「名字さん!!!」と大声で叫んだ。

侑くんの声がした途端、さっきまで繋がっていた電話は切れていて、この角名くんの電話は私がどこにいるか聞くのと引き止めるためだったのかと気づく。

お礼とか言っておきながらこの仕打ちは酷すぎるんじゃないかと内心舌打ちをし、追いつかれないよう慌てて靴を履き替え外へと逃げる。

「ちょお、待てって!!」

後ろから侑くんの焦った声が聞こえるが知らない、聞こえない。
あんな告白のいい逃げしたのに合わせる顔なんてあるわけないのだから。

このまま逃げたところで向こうはバリバリの運動部。
しかも体育祭でリレーのアンカーまで務めてる。
勝算が全くない鬼ごっこなんかたまったもんじゃないと思い、体育館へと走った。

今日も部活はあるので、彼が唯一苦手とする北さんがいるはず。
彼ならきっとこの様子をみてとめてくれる。

体育館へ駆け込むと、案の定北さんはいて、後ろから凄い勢いで走ってきた侑くんをみて注意をしてくれた。
北さん、ごめんなさい!と心の中で謝り侑くんが注意されてる間に逃げた。

家に帰ってから角名くんに『ひとでなし』と送っておいた。
恩を仇で返すなんてひどすぎる。
やっぱり侑くんより角名くんの方がひとでなしじゃないか。



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