04

それからというもの毎朝名字は用事もないのに俺らの朝練の時間に登校するようになった。

駅に着いてから学校に着くまでの十分くらいの時間だけなのに、毎日律儀に来ているのは少し驚いた。
人から聞く名字は不真面目そのものだったから、何日かすれば飽きて来なくなると思っていたのだ。

オレらと登校してるから当然遅刻はしなくなり、担任は「あの名字が遅刻しないなんて…」とひどく感動していた。
どうも去年出席日数で引っ掛かり進級が危うかったらしい。

今俺が関わっている名字と、人から聞く名字はどこか違う人のような気がしてならない。

不真面目だと聞いていたのに意外と真面目だし、何にも考えていなさそうに見えるけれど進路先はしっかり考えているみたいで、逆に俺の方が進路相談にのってもらったりもした。

それでも普段はヘラヘラとした態度なのでどれが本当の名字なのか今ひとつわからないでいる。

「名字さんてさ、中学の頃はかなり真面目だったらしいぜ」

そんなことを花巻が言い出したのはバレー部のミーティング終わりの昼休みのことだった。

「じゃあなんで今あんななんだよ」

「さぁ…?俺は知らないけど本人に聞けばわかるんじゃねーの?」

花巻の言い分は尤もだけれど、直接聞いたところではぐらかされそうな気がしてならない。
学年首位をキープしている実力は伊達じゃないのだ。

そんな話をしながらクラスへ帰ると、席で名字が美味しそうなシュークリームを食べていた。

「おかえり〜」

さっき廊下でわかれたはずの花巻がめざとくそれをみつけて「それ駅前の新作だろ?」と輝いた目で近寄ってくると、苦笑いをしながら「いる?」と箱を差し出してくれた。

「岩泉くんもよかったらどうぞ」

花巻には箱にあったものをあげたのに、俺に差し出したのは名字の手の中にあるそれで。

名字の手から食わなきゃいけないことに躊躇してたら「あーん」と追い討ちをかけられ、食べないのも変だからと仕方なしに名字の手から食べれば、花巻が「ひゅー、お熱いね」と揶揄ってきた。

「そんなんじゃねェよ!」

「私も一口たーべよ」

揶揄ってくる花巻にムッとしてたら、名字はなんの躊躇いもなく俺のかじったシュークリームを口に頬張りニヤリと笑った。

「間接ちゅーだね?」

「いちいち言うんじゃねェ!」

花巻と二人で顔を合わせて「照れてる〜」と揶揄ってくる名字を見て、真面目だったというこいつを何が変えたんだろうかと首を傾げた。



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