ポピー

同じクラスの北くんは、高校生とは思えないくらいきちんとしている。

遅刻や欠席をしないのは勿論、忘れ物もしなければ寝癖がついているところを見たこともない。

カバンや机の中はきれいに整頓されているし、制服も着崩さずに指定された通りピシッと着ている。

本人もよく笑うタイプならそれでもいいのだけれど、北くんはあまり笑わない。
基本的に無表情だと思う。
仲の良い大耳くんたちには笑ったりもしているみたいだけれど、正直信じられない。

だから少し、ほんの少しだけ近寄りにくい。

それなのに今日はその北くんと日直で、朝から憂鬱な気分になった。

「名前、北くんと同じとか羨ましいな」

「ほんまにそれ言っとる?」

「北くん顔きれいやん!近くに居れるなら日直くらいやるわ」

たしかに北くんは端正な顔立ちをしていると思う。
でも一緒にいると自分のズボラさが際立って複雑な気持ちになるのだ。

さっきも授業終了後に黒板を消しにいったら、文字だけ消した私に対して北くんは端から余すことなくきれいにした。

その後黒板消しをそのままにしてたらクリーナーをかけに行かれたし、北くんにはそのつもりがないとは思うけれど私に対する嫌味かなんかかと思った。

そしてやっと解放されると思った放課後、日誌を先生のとこに出しに行ったら見事に捕まった。

北くんは部活があるし断るかと思ったのにたまたま休みの日らしくて二つ返事で先生のお願いを聞いてしまったのだ。

一応私には「俺がやるからええよ」とは言ってくれたけれど部活も何もしていなくて帰るだけの私がこれを断ったら感じが悪いじゃないか。

まあ、つまりはお手伝いすることになったのだ。

内容は明日配る冊子のホチキス留め。

なんで今の今まで残しといたんだと腹が立って仕方がない。

パチパチとホチキスを留める音だけが教室内に響き、黙々と二人でやるこの作業は正直苦痛でしかない。

何か話せばこの気まずさも緩和されるのだろうか。

恋愛?
いや、北くんに好きな子がいるとは思えない。
バレー?
私が話についていけない。
趣味?
…お見合いじゃないんだから却下。

どうしよう、何を話そう。

そう思っていたら、目の前に座った北くんから笑い声が聞こえた。

思わず顔をあげたら、我慢ならないと言わんばかりに肩を震わせる北くんがいて心底驚いた。

「自分、百面相しとるで」

手は止めずに楽しそうに笑う北くんに、心臓が大きな音を立てる。

いやいや、さっきまで苦手だと思っていた相手にそんな。
必死に脳内に浮かんだ言葉を消そうとしても、高鳴る鼓動はどうしようもないくらいに正直だった。

「名字さん、顔赤いけど平気か?」

心配して私のおでこへと触れた手は冷たくて、私の熱が彼に伝わらないことを願うしかなかった。


花言葉:恋の予感



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