アスチルベ

小学校までは普通の身長だった。
中学に入ったら成長期といえどここまで伸びるものなのかと思うくらいぐんぐん伸びて、いつの間にか周りの男子を見下ろせるくらいになった。

そのせいで好きな男の子には告白する前に「あいつだけはない」と言われる始末で、恋をすることに臆病になった。

好きになってもどうせフラれるくらいなら最初から好きにならなければいい。
恋さえしなければ男子とは普通に話せるし、向こうも私のことなんて女子だと思ってもないから友人として仲良くなれる。

それでもたまに、私の身長のことを悪くいう人たちがいる。

別にこっちだって好きで伸びたわけじゃないんだから文句を言われたって仕方ないのだけれど、教室に入ろうと思っているのにその中で悪く言われると流石の私も困るのだ。

「名字さん、こんなとこでしゃがんでどないしたん?」

「侑くん、しーっ」

「…?ほんまなにしとるん?」

教室のドアの前で小さくしゃがんで彼らの話が終わるまで待っていようとしたら、タイミング悪く侑くんに見つかった。

侑くんには私が悪口を言われてるところを聞かれたくなかったなぁとため息を吐くのをグッと堪えて「ちょっと教室入りにくくてな」と苦笑いで言えば、侑くんはムッとした顔をして勢いよくドアを開けた。

「え、ちょ、侑くん…」

私の腕を引っ張って無理矢理立たせると、そのまま彼らのところへ連れて行った。

向こうはまさか悪口の対象がいると思っていなかったのだろう。
驚いた顔をした後気まずそうに私から目を逸らすとそのまま教室を出ようとした。

「お前ら名字さんに謝らんか」

聞いたこともないような低い声で侑くんが怒鳴り、近くにあった机を彼らの方へと蹴飛ばした。

「自分らの背が低いからって名字さんのことバカにするとか舐めとんのか?男の嫉妬は見苦しいなあ!」

「侑くん、ええよ別に…!私の背が高いのは事実やし!」

びっくりして慌てて侑くんを止めたら、そのままギュッと後ろから抱きしめられた。

「お前らには名字さんは似合わへんかもしれないけど、俺にはこれくらいで丁度ええねん!そんなに名字さんのこと気になるんやったらまずその根性叩き直してからくるんやな!」

フンッと大きく鼻を鳴らしバカにしたような口調で彼らに言い放った侑くんは、一体何を言ったのだろう。

私の身長が丁度いい?

いや、期待なんかするな。
期待して今まで何回痛い目にあったと思ってるんだ。

でも、抱きしめられた腕はがっしりとしていて、私と並んでも見上げるくらいの身長がある。

侑くんはバカにしたりしない?

去っていった彼らを見届けて、侑くんは私に回した腕をゆっくりと解き楽しそうに声を立てて笑った。

「好きなコのこといじめるなんてガキのやることやで」

「や、そういうのと違うと思うよ…?」

「名字さんはもっと自分のこと客観視した方がええな?自分、背高くて美人やで」

キッパリと告げられた言葉に顔に熱が集まるのがわかる。

「俺は名字さんくらいのコの方が話しやすくて好きやし、あとちゅーするときもこれくらいの身長差のがしやすいんやで?」

ニヤリと笑った侑くんに何も言えないでいると、侑くんは「意識してもらえたならさっきのやつらにお礼でも言わんといけないな」と嬉しそうに笑った。


花言葉:恋の訪れ



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