ラナンキュラス
毎月来る下腹部の不快感と痛みに、いつもなら薬を持っているのに今日に限って家に忘れてくるなんてついてない。
保健室では薬をくれなくなったから今日一日この痛みと戦わないといけないのか。
とはいえ、湯たんぽくらいは貸してくれるだろうし1時間も寝たら少しは落ち着くかもしれない。
そう思って歩いていたはいいのだれけど、向かう途中であまりのお腹の痛さに歩くのがしんどくなり思わず蹲ったら後ろから「名字さん?」と松川くんの声が聞こえた。
「どうしたの?具合悪い?」
優しく聞いてくれた松川くんに生理痛ですとは言えなくて、なんて答えればいいのか迷っていたら困った顔をしてそのままどこかへ行ってしまった。
校舎の床は冷たくて、足元から冷える感覚が更に腹痛を誘う。
せめて温かいなにかがあればお腹を温められるのに。
「名字さん、これ」
再び聞こえた松川くんの声に顔をあげたら、目の前にペットボトルのお茶が差し出されていた。
「ここ寒いから、よければ飲んで」
すぐ近くの自販機で買ってきてくれたであろうお茶を手に取り飲むと、お腹のあたりがポカポカして幾分か痛みがマシになった気がする。
「ごめん、ありがと…」
「保健室行こうとしてるんだよね?俺が連れてってもいいんだけど…先生呼んできた方がいい?」
なんて気遣いのできる人なんだろうか。
その優しさが沁みて、視界が少しだけぼやけるのを感じる。
「呼んできてくれると嬉しい…」
「わかった。急いで呼んでくるからちょっと待っててね」
松川くんは私に自分の着ていた上着をそっとかけて、そのまま保健室の方へと走って行った。
さっきまで松川くんが着ていたからかぬくもりのまだ残るブレザーが、冷えた私の身体をじんわりと温めてくれる。
かけられた時からふわりと香る優しい香りに、なんだか心まで温かくなった。
しばらくすると保健室の先生が私の元へと駆けてきてくれて、松川くんはそれを見届けると「お大事に」と言って戻っていった。
保健室についてベッドに横になった時に松川くんの上着がそのままなのに気づいたけれど、少しだけ彼の優しさに触れていたくてそのままギュッと抱きしめてみたらさっきまで感じていた心地よさはなくて、代わりに息苦しいくらいの鼓動の高鳴りを感じた。
後で上着を返す時にどんな顔で松川くんに会えばいいのかわからなくて、そのままベッドに横になり目を閉じて猛烈に襲ってくる眠気に身を委ねた。
花言葉:優しい心遣い
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