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翌日、角名くんからは『お礼のつもりだったんだけどな。喜んでもらえなくて残念』と返ってきて、『どこがお礼だったの』と憤慨したLINEを返せば『侑、どうにかして名字さんと会おうとしてるみたいだから頑張って』ときた。
放っておいてくれて構わないのに、何故そんな執拗に追いかけてくるのかと嘆く。
百歩譲って友だちのままでいたいからだとしても、こちらの気持ちも考えてほしい。
ため息をついてベッドに転がると、友人からLINEが入っていて『名前暇ならこれから遊ばん?』という遊びの誘いだったので気分転換になるかなと『OK、用意する』と返したら『ほな家行くから待っとって。折角やから可愛い格好して出かけようや〜』と言われた。
このどん底の気分を上げるためにお気に入りのワンピースを身につけ、いつもよりちょっとだけ濃い化粧をし、髪の毛を巻いて頭の少し高い位置で結ぶ。
さて、アクセサリーは何をつけようかなんて考えてたら憂鬱な気持ちも少し晴れた。
準備が終えたところで家のインターホンが鳴り、来たかな?と思い「今行く〜!」と言いながら玄関へと向かう。
ドアを開けながら「どこ行く?」と声をかけたところで気づく。
目の前に立っているのは友人ではなく、友人より大分背の高い金髪の彼だった。
嵌められた、そう思ってスマホを見れば『ファイト!』と友人からきていて、どいつもこいつも裏切りやがってと思わず悪態をついた。
久しぶりに見た侑くんは元気がなく、このまま家の前に立たれたままでも困るので仕方なく「どっか行く?」と聞く。
「おん」と声を発した彼は「すまん、名字さん逃げるから頼み込んだんや。LINEも知らへんし…」とすまなそうに言った。
「どこ行こうか」と尋ねれば侑くんのお腹が盛大になったので「ファミレスでも行こか」と声をかける。
ファミレスについても彼は黙ったままで、何も話す気がないならなんで来たんやと八つ当たりみたいなことを思う。
ドリンクバーでドリンクをえらんで、注文していたご飯が届く。
黙々と食べるご飯は美味しくなくて、思わずため息をはいた。
それを聞いた侑くんがビクッとして私の方を見た。
このまま気まずいのもごめんだと思い「今日、何か用でもあったん?」と聞く。
「なんも喋らんとご飯食べに来たんと違うやろ」と続ければ「名字さん、俺のこと好きなん…?」と聞いてきた。
なんで二回も言わせようとするんや!と叫びたい気持ちを必死に抑え「それ言わせてどうするん」となるべく冷静に返す。
侑くんは相変わらずしょげたままで、本当に何しにきたんやと怒りが沸々とわいてくる。
何が嬉しくて意図していなかったとはいえ告白した相手になにも言われないままご飯を食べないといけないのか。
振るなら振るでとっとと言ってくれればいいのに。
イライラしているのが伝わったのだろう。
侑くんは「ちゃうねん!言わせるとかそう言うんやなくて…」と慌てて否定した。
その態度に怒りもピークに達し、「じゃあなんなん?私があの時好きって言うたの聞こえんかったん?それとも聞こえてるのに知らんふりでもしてるん?こっちが会わないようにしてれば会いにくるくせに会えば会ったでなんも言わんで!馬鹿にすんのも大概にしてや!」と叫ぶと「すまん!!すまんて!!」と謝られる。
「名字さんのこと好きやから俺の都合の良い聞き間違いかと思ったんや!」
「え、なんて?」
「だから!!好きやから!!聞き間違いかと思ったんや!!」
侑くんはそう叫んで、しまった!という顔をして項垂れた。
「ちゃうねん、もっと格好よく言うつもりやったんや…」
最早独り言と化した彼の言葉は私の耳には入らなかった。
さっきまでの怒りはどこかへいってしまい、そのかわりに心臓のバクバクがとまらない。
好き?侑くんが私を?
「なんか言ってや…」と泣きそうな顔で言う侑くんに「嘘ォ…」と呟けば「嘘やない、名字さんが好きや」と返される。
じっと目を見つめられ「返事、ほしいんやけど」と言われれば「それは私のセリフやろ…」と返す。
お互い見つめあって笑い合い「両想いってことでええ?」と聞かれたので「せやね、ええと思う」と返す。
「飯も食ったし、これからデートでもいかへん?」
「初デートやな。部活はええの?」
「今日休みやねん」
「角名くんたちにお礼言わないとやな」
「せやな」
そう言って二人してスマホを取り出し、侑くんは角名くんへ、私は友人へ『ご迷惑おかけしました』と送った。
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